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越境(ブロック塀・屋根・樹木・給排水管)がある物件の買い方【覚書と是正費用の負担整理】

大家のリアル

築古物件の売買で「越境」が一切出てこない案件は、私の経験上ほとんどありません。大家歴15年、9棟を取得してきた中で、境界と越境の論点が出なかった物件は1棟だけでした。ブロック塀が境界をまたいでいる、隣家の庇がこちらの上空に出ている、給排水管が隣地の地中を通っている——こうした越境は、それ自体で購入を止める理由にはなりませんが、「覚書が取れるか」「是正費用をいくらと見積もって価格に反映するか」を整理せずに買うと、後で数十万〜数百万円単位の負担になって返ってきます。私は過去に越境を理由に約120万円の指値を通した物件が2棟あり、逆に覚書が取れずに撤退した案件も3件あります。本記事では、機械設計者らしく越境物の種類ごとにリスクを定量化し、現地調査の手順、覚書に盛り込むべき条項、費用按分の考え方、指値と撤退ラインの決め方までを、実例と数字で整理します。

  1. 越境物の種類別リスク評価——同じ「越境」でも重さは10倍違う
    1. 典型的な越境物6種のリスク比較
    2. 私が使っている点数化のルール
  2. 現地調査の手順——境界標・塀の中心・埋設管図面の3点確認
    1. 手順1:境界標を四隅から順に探す
    2. 手順2:ブロック塀は「中心・内・外」のどれかを特定する
    3. 手順3:埋設管は図面と現地のマスで突き合わせる
    4. 調査結果は「越境一覧表」にまとめて買付の添付資料にする
  3. 越境の覚書に入れるべき4条項——「現況承認」だけの覚書は半分無意味
    1. 必須4条項とその狙い
  4. 「されている越境」と「している越境」で価格の扱いを変える
    1. 越境されている場合:将来の建替え自由度で減価する
    2. 越境している場合:是正費用の全額+αを引く
    3. 双方向の越境が同時にあるときは相殺せず個別に積む
  5. 給排水管の越境——目に見えないぶん最も高くつく
    1. 自分の管が隣地を通っているケース
    2. 隣地の管がこちらを通っているケース
  6. 越境を理由にした指値と、撤退ラインの決め方
    1. 撤退ラインは「覚書」「金額」「時間」の3条件で事前に決める
  7. 失敗談——「口約束の是正」を信じて覚書を後回しにした代償
  8. 越境を放置して賃貸運用・売却するとどうなるか——将来の買い手の目線で見積もる
    1. 買い手が受ける3つの不利益を金額にする
  9. まとめ——越境は「避ける」ものではなく「値付けする」もの

越境物の種類別リスク評価——同じ「越境」でも重さは10倍違う

まず押さえるべきは、越境物は種類によってリスクの重さがまったく違うという点です。私は物件調査のとき、越境物を「是正費用の大きさ」と「是正のタイミングを自分でコントロールできるか」の2軸で評価しています。機械設計でいうFMEA(故障モード影響解析)と同じ発想で、影響度×発生確率で点数化するイメージです。

典型的な越境物6種のリスク比較

越境物 是正費用の目安 リスク度 理由
樹木の枝・根 1〜10万円 低 剪定で解消可。2023年民法改正で枝の切除ルールも整備
エアコン室外機・配管 3〜15万円 低 移設が容易。入退去時に対応可能
雨樋 5〜20万円 中 部分改修で対応可だが、足場が要ると費用が跳ねる
ブロック塀 20〜80万円 中〜高 撤去新設で1mあたり2〜4万円。所有者の特定が先決
軒・庇(建物本体) 50〜300万円 高 建物を切らないと直せない。事実上「建替時まで是正不能」
給排水管(地中) 30〜200万円 高 目視不可・図面不備が多い。掘削と引込替えで高額化

ポイントは、樹木や室外機のような「動かせる越境」と、軒・庇や埋設管のような「建物と一体の越境」を同列に扱わないことです。前者は決済までに売主負担で是正させれば済みます。後者は是正のタイミングが建替え時までコントロール不能なので、覚書の質がすべてになります。私が所有する築38年のアパートでは、隣家の庇が約12cmこちらの上空に越境していましたが、庇の是正は隣家の建替え時以外に現実的な方法がなく、覚書一本で処理しました。この判断軸を持たずに「越境あり=危険」とすべて避けると、築古の良い案件はほぼ買えなくなります。逆に、リスクの軽重を金額で言える買い手は、越境物件を仕入れのチャンスに変えられます。

私が使っている点数化のルール

具体的には、是正費用を「小(10万円未満)=1点、中(10〜50万円)=2点、大(50万円超)=3点」、是正タイミングを「いつでも可=1点、退去時など条件付き=2点、建替え時のみ=3点」として掛け算し、9点満点でスコアを付けます。樹木の枝なら1×1=1点、中心またぎのブロック塀なら2×2=4点、隣地経由の給排水管なら3×3=9点という具合です。4点以下は「決済までに売主負担で是正」で処理、6点以上は「覚書の質+指値」で処理、と機械的に対応を分けます。買付を入れるかどうかを現地で迷わないために、評価基準を先に固定しておくのが機械設計の癖です。図面の公差設計と同じで、判断基準が数値化されていれば、担当者(この場合は自分)の気分で結論が揺れません。

現地調査の手順——境界標・塀の中心・埋設管図面の3点確認

越境の有無は、売主や仲介の口頭説明ではなく、自分の目と図面で確認します。私は内見時に必ず30分を境界確認に充てており、持ち物はメジャー(5.5m)、水糸代わりの紐、スマホのカメラ、そして事前に取得した公図・地積測量図・建物図面の3点です。手順は次の通りです。

手順1:境界標を四隅から順に探す

まず地積測量図に記載された境界点の数を数え、現地で境界標(コンクリート杭・金属鋲・プレート)を1本ずつ照合します。私の経験では、築30年超の物件で境界標が全点残っているのは半分以下です。4点中2点しか見つからない、といった状態なら、確定測量(費用相場40〜80万円、隣地立会いあり)を売買条件に入れるかを検討します。境界標が塀の下に埋もれていることも多いので、塀の根元は必ずしゃがんで確認します。写真は境界標ごとに引きと寄りの2枚、後から位置関係を再現できるように撮っておきます。

手順2:ブロック塀は「中心・内・外」のどれかを特定する

塀の越境判定は、境界線が塀のどこを通るかで決まります。境界標2点に紐を張り、塀の面と比較すると、塀が「境界の中心にまたがる共有型」「自分の敷地内に完結する内積み」「隣地側に完結する外積み」のどれかが分かります。中心型なら撤去・改修に隣地の同意が要り、費用も折半交渉になります。私が2棟目に買った築古戸建てでは、長さ18mの塀が中心またぎで、後の改修相談時に隣地と折半合意(当方負担約21万円)するまで3か月かかりました。塀の所有と位置は買う前に特定しておくべき筆頭項目です。

手順3:埋設管は図面と現地のマスで突き合わせる

給排水管は水道局で閲覧できる給水装置図面と下水道台帳で経路を確認し、現地の量水器・汚水マスの位置と突き合わせます。図面上は自敷地内なのに、マスの位置からして明らかに隣地を経由している——という食い違いが築古では珍しくありません。図面が現況と合わない場合は「経路不明」として最も重いリスク側で見積もるのが原則です。マスの蓋は手で開けられるものが多いので、可能なら開けて管の流れ方向も確認します。上流から下流へどの方向に流れているかが分かれば、図面がなくても経路の当たりが付けられます。

調査結果は「越境一覧表」にまとめて買付の添付資料にする

現地で確認した越境は、その日のうちに「番号・越境物・方向(被/加)・数量(長さcm・面積)・写真番号・是正費概算」の6項目で一覧表にします。私はA4一枚のフォーマットを使い回しており、作成時間は15分程度です。この一覧表は3つの場面で効きます。第一に買付証明に添付すると、指値の根拠が一目で伝わり、売主側の検討が速くなります。第二に覚書を作る際、対象物の特定条項をこの表からそのまま起こせます。第三に、決済後に管理会社へ引き継ぐ物件資料になります。口頭と記憶だけで処理すると、半年後には自分でも「どの塀が何cmだったか」を思い出せません。測って、撮って、表にする——地味ですが、越境処理の精度はこの記録の質で決まります。

越境の覚書に入れるべき4条項——「現況承認」だけの覚書は半分無意味

越境が見つかったら、決済までに隣地所有者との間で「越境に関する覚書」を締結するのが定石です。ただし、仲介が用意するひな型には肝心の条項が抜けていることがあり、私は必ず次の4点が入っているかをチェックしています。

必須4条項とその狙い

第一に「現況の相互確認」。どの越境物が、どちらからどちらへ、どの程度(できれば数値で。例:庇が境界から最大12cm)越境しているかを特定します。ここが曖昧だと後日の紛争時に覚書自体が使えません。第二に「建替時・再築時の是正(撤去・引込替え)義務」。越境している側が、建物の建替えや大規模修繕の際に自己の費用負担で越境を解消することを約束させる条項で、覚書の心臓部です。第三に「第三者承継」。覚書の効力を、双方の土地の譲受人(相続人・買主)にも承継させる条項です。これがないと、隣地が売却された瞬間に覚書が事実上リセットされます。第四に「費用負担の明記」。是正費用をどちらが持つか、測量や工事の立会い協力義務まで書き込みます。

💡 判断のポイント

「現況を相互に承認する」だけの覚書は、越境の存在を認めた記録にはなっても、将来の是正を何も約束していません。私は「建替時撤去」と「第三者承継」の2条項が入らない覚書は締結済みとみなさず、価格交渉か撤退の材料にしています。覚書の法的効力の範囲(特に承継条項が新所有者にどこまで及ぶか)は事案によるため、2026年時点でも最終判断は司法書士・弁護士への確認をおすすめします。

実務では、覚書の締結を「売主の責任と負担で決済までに完了させる」ことを売買契約の特約にします。買主になってから隣地と交渉するのは立場が弱く、私の感覚では成立率が2〜3割落ちます。売主には長年の近隣関係があるぶん、話が通りやすいのです。締結済みの覚書は原本を決済時に引き継ぎ、コピーを賃貸管理の物件ファイルにも入れておきます。加えて、覚書には現地写真と簡単な位置図(手書きで可)を別紙として綴じ込むのがおすすめです。文言だけの覚書は10年後に読むと対象物の特定で揉めますが、写真と図があれば「どの塀のどの部分か」が一目で確定します。私の物件ファイルでは、覚書・写真・越境一覧表の3点を1セットにして保管しています。

「されている越境」と「している越境」で価格の扱いを変える

越境には方向があり、こちらが越境されている(受忍側)のか、こちらが越境している(加害側)のかで、取得価格への織り込み方を変える必要があります。方向によって「誰がいつ費用を払うことになるか」が逆転するからです。私は次の表のように整理しています。

立場 将来の負担 減価の考え方 覚書で取るべき約束
越境されている(受忍側) 使えない土地・建替え時の設計制約 越境面積×土地単価×0.5〜1.0+交渉コスト10〜30万円 相手の建替え時撤去+第三者承継
越境している(加害側) 撤去・引込替え費用を自己負担(時期は相手次第) 是正費用見積り×1.2〜1.5 現況のまま存続を認める承諾+承継

越境されている場合:将来の建替え自由度で減価する

隣家の庇や塀がこちらに越境しているケースでは、直接の出費はすぐには発生しません。しかし、越境部分は事実上使えない土地であり、将来こちらが建替える際の設計制約になる可能性があります。私は「越境面積×土地単価×0.5〜1.0」+「交渉コスト(専門家相談や測量で10〜30万円)」を目安に減価します。例えば、幅15cm×長さ10mの越境で土地単価が坪40万円なら、越境面積約0.45坪×40万円=約18万円、係数と交渉コストを載せて30〜40万円の指値根拠にします。

越境している場合:是正費用の全額+αを引く

こちらの塀や配管が隣地に越境しているケースは、将来「撤去してくれ」と言われれば応じる義務を負うのは自分です。したがって是正費用の見積額は満額で引きます。塀の撤去新設なら1mあたり2〜4万円、建物側の是正なら解体範囲の工事費見積りをそのまま使います。さらに、是正の要求時期を隣地にコントロールされるリスク(最悪の場合、入居中に工事が必要になる)を加味して、見積額の1.2〜1.5倍を交渉の初期値にします。私の5棟目では、こちらの汚水マスと配管が隣地側に約30cm入り込んでおり、将来の引込替え見積り48万円に対し、60万円の指値根拠として使いました(最終的に35万円減で合意)。加害側の越境は覚書だけでは足りず、「金額として今もらっておく」のが原則です。

双方向の越境が同時にあるときは相殺せず個別に積む

築古の密集地では、「こちらの塀が隣に5cm出ていて、隣の雨樋がこちらに10cm出ている」というお互いさま状態も珍しくありません。このとき「相殺でチャラ」にしたくなりますが、私は必ず個別に金額を積みます。理由は、是正のタイミングと費用がまったく非対称だからです。雨樋の是正は10万円で済んでも、塀の撤去新設は30万円かかるかもしれません。双方向の越境は覚書も1通にまとめて「相互に現況を承認し、各自の建替え時に各自の負担で是正する」形に整理すると、隣地側にも受け入れやすく、締結率が上がります。私の7棟目はまさにこの相互越境で、双方の是正費を個別に積んだ差額22万円分を指値に反映したうえで、相互承認型の覚書を売主主導で締結してもらいました。

給排水管の越境——目に見えないぶん最も高くつく

越境の中で私が最も警戒するのが地中の給排水管です。理由は3つあります。第一に目視できないため、契約前に正確な現況をつかみにくいこと。第二に是正費用が高額なこと(引込替えは前面道路の掘削を伴うと100万円を超えることもあります)。第三に、水道という生活インフラそのものなので、トラブルが入居者の生活に直結することです。

自分の管が隣地を通っているケース

旧分筆地や旗竿地でよくあるパターンで、隣地の地中を通って前面道路の本管につながっています。隣地の建替えや売却の際に「管を移設してくれ」と要求されると、自敷地経由での引込替えが必要になります。費用の目安は、宅地内配管のやり替えで30〜60万円、道路掘削を伴う本管からの新規引込で60〜150万円。私は8棟目の検討時、隣地経由の給水管が見つかり、水道局図面で引込替えルートを確認したうえで「引込替え実費見積り92万円」を添えて指値し、80万円減で取得しました。取得後2年で実際に隣地が売却されて移設を実行しましたが、先に見積りと資金を確保していたため慌てずに済みました。なお、2023年施行の民法改正で他人の土地への設備設置権・設備使用権のルールが明文化されましたが、無償で今のまま使い続けられる保証ではありません(適用条件の詳細は専門家に確認してください)。

隣地の管がこちらを通っているケース

逆パターンでは、こちらの建替えや大規模修繕で基礎工事をする際に、隣地の管を切れない・移設協議が要るという制約になります。掘削工事のたびに管の位置を避ける設計対応が必要で、私の物件では基礎補強工事の設計変更で約15万円の追加が出たことがあります。このケースは覚書で「当方の建替え時には隣地の負担で移設する」ことを約束させるのが理想ですが、隣地に負担を求める内容なので難航しやすく、取れなければその分を取得価格で調整します。また、隣地の管がこちらの敷地内で漏水した場合の復旧責任と費用負担も、可能なら覚書に一文入れておきます。築30年超の鋳鉄管や塩ビ管は漏水リスクが現実的にあり、掘り返して直すのは自分の敷地、原因は他人の管という面倒な構図になるからです。私は埋設管がらみの物件では、管の材質と推定埋設年も水道局図面から控えておき、耐用年数の残りを是正費見積りの前提条件として記録しています。

越境を理由にした指値と、撤退ラインの決め方

越境は、感情ではなく数字で指値に変換します。私が使っている計算式は単純で、「是正費用の実費見積り×リスク係数(1.2〜1.5)+交渉・書類コスト(10〜30万円)」です。重要なのは、口頭の概算ではなく、業者の見積書や水道局図面のコピーといった「証拠」を添えて売主に提示することです。証拠付きの指値は、私の経験則で通る確率が体感5割を超えます。根拠のない「気持ちの指値」は2割も通りません。売主側も、次の買い手に同じ指摘をされると分かれば、目の前の証拠付き提案に応じる合理性があるからです。もうひとつの実務上のコツは、指値と覚書を交換条件にすることです。「売主負担で4条項入りの覚書が決済までに取れるなら指値は半分に圧縮する。取れないなら満額の指値」と提示すると、売主には覚書取得に動くインセンティブが生まれます。私の6棟目はこの方式で、当初90万円の指値提示に対し、売主が覚書を締結してきたため45万円減で合意しました。金額は減りましたが、覚書付きの物件になったことで出口の売却リスクが消え、トータルでは得だったと考えています。

撤退ラインは「覚書」「金額」「時間」の3条件で事前に決める

一方で、深追いしない線も先に決めておきます。私の撤退基準は次の3つです。(1)建替時撤去・第三者承継入りの覚書が決済までに取れず、かつ越境物が建物本体か埋設管である場合。(2)是正費用見積りが物件価格の15%を超え、指値でも吸収できない場合。(3)隣地所有者が行方不明・相続未登記などで、交渉相手の特定に3か月以上かかる見込みの場合。この3つのどれかに該当したら、どれだけ利回りが良く見えても降ります。実際、表面利回り14%超の木造アパートで、隣地が相続未登記のまま7名共有になっており、覚書の締結相手を確定できない案件がありました。利回りに未練はありましたが、基準(3)に該当したので撤退。あとで聞いた話では、購入した方は塀の撤去交渉が2年経っても進んでいないそうです。撤退ラインを数字で先に決めておくと、現地で物件に惚れても判断がぶれません。

失敗談——「口約束の是正」を信じて覚書を後回しにした代償

偉そうに書いてきましたが、私自身、越境の処理で明確に失敗した経験があります。4棟目に取得した築41年のアパートでのことです。

⚠️ 失敗談

物件のブロック塀(長さ約9m)が隣地に最大8cm越境しており、売主は「隣の方とは長い付き合いで、問題ないと言ってもらっている」との説明でした。私は決済を優先し、覚書は「決済後に売主が協力して締結する」という口約束のまま購入。ところが決済の4か月後に隣地が第三者に売却され、新所有者から「塀を撤去して境界内に作り直してほしい」と正式に要求されました。旧隣人の「問題ない」は新所有者には一切引き継がれません。結局、塀の撤去・新設で38万円、境界の復元測量で12万円、合計約50万円を自己負担しました。覚書があれば、少なくとも売買時に価格へ織り込めた金額です。「今の隣人が良い人か」は資産価値と無関係で、承継条項のない口約束は隣地の売却1回で消滅する——50万円払って身体で覚えた教訓です。

この失敗以降、私は「覚書の締結は決済前・売主の責任と負担で」を絶対条件にしています。決済後の交渉は、こちらにカードが1枚もない状態での交渉です。同じ38万円の塀工事でも、決済前なら指値の根拠、決済後ならただの持ち出し。タイミングだけで50万円の差が付くことを、ぜひ覚えておいてください。

越境を放置して賃貸運用・売却するとどうなるか——将来の買い手の目線で見積もる

「覚書がなくても賃貸は回るのだから、放置でいいのでは」という考え方もあります。確かに、越境があっても家賃は入ってきますし、入居者が越境を気にすることはまずありません。しかし、出口(売却)から逆算すると放置のコストは明確です。しかも、時間が経つほど状況は悪化します。隣地の代替わりや売却で交渉相手が変わるたびに締結の難易度は上がり、当時を知る売主や仲介にも連絡がつかなくなっていきます。私の感覚では、取得直後なら8割方まとまる覚書交渉が、10年放置すると相手の代替わりで振り出しに戻る確率が無視できなくなります。

買い手が受ける3つの不利益を金額にする

将来の買い手の立場で見ると、越境未処理の物件には次の負担が乗ります。(1)融資評価の減額——金融機関によっては境界非明示・越境未是正を理由に担保評価を絞る、あるいは確定測量を融資条件にする(実費40〜80万円)。(2)是正費用の丸かぶり——覚書がなければ買い手が自費で交渉・是正するしかなく、本記事で見た通り数十万〜200万円。(3)交渉期間のロス——隣地との覚書締結には私の経験で平均2〜3か月、こじれれば1年以上かかる。合理的な買い手はこれを全部指値にしてきますから、売る側になったあなたは「放置していた越境の是正費用+リスクプレミアム」を売却価格から引かれることになります。私の周辺の実例では、覚書未締結のまま売りに出された築古アパートが、買付段階で150万円の指値を受け、結局売主負担で覚書を取ってから再販売したケースがあります。保有中に隣人関係が良好なうちに覚書を締結しておけば、コストは書面作成と専門家報酬程度(司法書士に依頼しても3〜10万円)で済みます。私は9棟すべてで、取得時か取得後1年以内に越境関係の書面を整えており、これは「将来の自分への指値を先に潰しておく作業」だと考えています。賃貸運用中は何も起きないからこそ、放置が最も高くつくのがこの論点です。

まとめ——越境は「避ける」ものではなく「値付けする」もの

越境のある物件の買い方を整理してきました。要点を振り返ります。第一に、越境物は種類でリスクが10倍違う。樹木や室外機は数万円で解消できる軽い越境、軒・庇と地中埋設管は建替え時まで是正できない重い越境として、分けて評価すること。第二に、現地調査は境界標の照合、塀の中心・内・外の特定、水道局図面と現地マスの突き合わせの3点セットで、口頭説明ではなく自分の目で確認すること。第三に、覚書は「現況承認・建替時撤去・第三者承継・費用負担」の4条項が揃って初めて機能し、締結は決済前・売主の責任で行わせること。第四に、されている越境は建替え自由度の減価として、している越境は是正費用満額×リスク係数1.2〜1.5として、証拠付きの指値に変換すること。そして、覚書が取れない・是正費が価格の15%超・交渉相手が特定できない、のいずれかに該当したら撤退する——この基準を現地に行く前に決めておくことです。越境は築古投資では避けて通れない論点ですが、だからこそ、きちんと値付けできる買い手には仕入れのチャンスになります。周囲が「境界がぐちゃぐちゃだから」と敬遠する物件を、調査と覚書と指値の技術で安全に安く買う。私が15年かけて身につけた中でも、再現性の高い技術のひとつです。なお、境界・覚書の法的効力や登記に関わる最終判断は、2026年時点の法令に基づき、土地家屋調査士・司法書士・弁護士など専門家への確認を併用してください。

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