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空室・入居者滞納で家賃が入らない時の税務:未収家賃の収入計上と貸倒れの経費化

大家のリアル

複数棟の収益不動産を15年運営してきた私が、経理面で最も誤解が多いと感じるのが「滞納家賃の税務処理」だ。結論を先に言うと、不動産所得は原則として発生主義で計算するため、家賃が実際に入金されていなくても、契約上支払われるべき家賃は収入として計上しなければならない。つまり滞納が3ヵ月続いていても、その3ヵ月分は「もらっていないのに課税所得に乗る」のが原則だ。私が所有する築古アパートの一室で過去に半年間の滞納が発生した際、この原則を知らずに「入金ベースで確定申告すればいい」と考えていたら、後で修正申告のリスクを抱えるところだった。一方で、回収不能が確定した場合は貸倒損失として経費化できる制度があり、事業的規模であれば貸倒引当金という形で先取り的に損金計上する選択肢もある。本記事では、発生主義の原則から貸倒損失の3要件、貸倒引当金の繰入計算、債権放棄や代位弁済の処理、退去にかかる弁護士費用の経費化まで、9棟運営の実務経験と数字を交えて整理する。滞納対応は感情的にも消耗するテーマだが、税務の仕組みを正確に理解しておけば「払われていないお金にまで税金を払う」という最悪のパターンは避けられる。なお税務判断は個々の事情で結論が変わるため、最終判断は必ず税理士に確認してほしい。

  1. 不動産所得は発生主義が原則:未収家賃でも収入計上が必要
    1. 現金主義との違いを数字で理解する
    2. 未収家賃の帳簿処理と決算書への反映
  2. 滞納が回収不能になったら:貸倒損失の3要件を確認する
    1. 法律上の貸倒れ:債権が法的に消滅したケース
    2. 事実上の貸倒れ:債務者の資産状況から回収不能と判断するケース
    3. 形式上の貸倒れ:一定期間取引停止後の債権額を切り捨てるケース
  3. 事業的規模なら使える貸倒引当金:一括評価と個別評価の繰入計算
    1. 一括評価による繰入限度額の計算
    2. 個別評価による繰入計算:回収困難な特定債権への対応
    3. 貸倒引当金を使うかどうかの判断軸
  4. 少額の継続的取引なら使える形式基準:一定額を貸倒れにできるケース
    1. 督促の実施と記録が判断の分かれ目になる
    2. 少額債権でも放置せず処理することの意味
  5. 滞納家賃を放棄・免除する場合:債権放棄の税務処理
    1. 債権放棄書・合意書の作成が必須
    2. 債権放棄が入居者側の課税(債務免除益)に関わる可能性
    3. 債権放棄と貸倒損失の区別を明確にする
  6. 家賃保証会社から代位弁済を受けた場合の収入計上
    1. 代位弁済のタイミングと収入計上時期
    2. 保証会社が代位弁済後に入居者へ請求する分の扱い
    3. 保証会社利用のコストと税務上のメリットを比較する
  7. 退去・明渡しにかかる弁護士費用・強制執行費用の経費計上
    1. 弁護士費用の内訳と経費計上の考え方
    2. 強制執行費用と原状回復費用の区分
  8. まとめ:滞納対応中の大家が課税所得を過大に計上しないための実務

不動産所得は発生主義が原則:未収家賃でも収入計上が必要

不動産所得の計算では、所得税法上「権利確定主義(発生主義)」が採用されている。これは、実際に現金が入金されたかどうかではなく、契約上その家賃を受け取る権利が確定した時点で収入に計上するという考え方だ。賃貸借契約で「毎月末日までに翌月分を支払う」と定めていれば、入居者が実際に払っていなくても、その月の家賃は収入として計上しなければならない。私が過去に経験した滞納ケースでは、入居者が6ヵ月間家賃を払わなかった。家賃は月8万円だったので、単純計算で48万円が未収のまま滞留した。しかし確定申告では、この48万円もいったん収入として計上する必要があった。実際に手元に現金がないにもかかわらず課税所得が増えるため、キャッシュフローと税務上の所得がずれる典型例だ。

現金主義との違いを数字で理解する

もし現金主義(入金ベース)で計算できるなら、滞納中は収入ゼロとして計算できるため、税負担はその分軽くなる。しかし不動産所得では原則として現金主義は認められておらず、青色申告の小規模事業者に限定的に認められる特例があるのみで、多くの個人大家には該当しない。私の場合、年間家賃収入が9棟合計で約2,400万円ある中、滞納額48万円は全体の2%程度だが、これが未収のまま収入計上されることで、実際のキャッシュフローより高い所得に対して所得税・住民税が計算される。この「入っていないのに課税される」ズレを理解していないと、資金繰りの見通しが崩れる。機械設計の仕事で図面と現物の寸法差を許容できないのと同じ感覚で、私は毎月「契約家賃の合計」と「実際の入金額」を突き合わせるチェックを行い、ズレが生じた時点でその原因(滞納か、退去による解約か、家賃減額交渉によるものか)を必ず特定するようにしている。

未収家賃の帳簿処理と決算書への反映

実務上は、賃貸契約に基づき発生した家賃を「売上(収入)」として計上し、実際に未回収の分は「未収入金」または「未収賃貸料」として資産に計上する。青色申告決算書や損益計算書では収入欄に契約家賃全額を記載し、貸借対照表(資産・負債の欄)には未収分を資産として残す形になる。この処理を怠り、入金額だけを収入として記帳してしまうと、税務調査で収入漏れを指摘されるリスクがある。私は毎月の家賃管理表で「契約金額」「入金額」「未収残高」の3列を必ず分けて記録しており、確定申告の際に会計ソフトへ機械的に反映できるようにしている。9棟・数十室規模になると、この管理表を作らずに感覚だけで滞納状況を把握しようとすると、どの部屋がいつから未収になっているのかを見落としやすい。私は表計算ソフトで各室ごとに「契約家賃」「当月入金」「累積未収額」「督促状況」の4項目を並べ、累積未収額が2ヵ月分(私の物件の平均家賃で言えば概ね14〜16万円程度)を超えた時点で、次の対応(督促の強化、保証会社への連絡、弁護士相談)を検討する運用ルールにしている。

滞納が回収不能になったら:貸倒損失の3要件を確認する

滞納が長期化し、入居者の経済状況や連絡状況から「もう回収できない」と判断できる場合、その未収家賃を貸倒損失として必要経費に計上できる。ただし国税庁の通達では、貸倒損失として認められるためには大きく3つの要件のいずれかを満たす必要があるとされている。私が実際に貸倒処理を検討したケースでは、この3要件を一つずつ検証する作業に思いのほか時間がかかった。安易に「もう無理だから経費にする」と判断すると、税務調査で否認されるリスクがあるため、要件ごとに根拠資料を残すことが重要だ。

法律上の貸倒れ:債権が法的に消滅したケース

1つ目は「法律上の貸倒れ」で、更生計画や再生計画の認可決定、特別清算に係る協定の認可などにより債権の一部が切り捨てられた場合、また債権者集会の協議決定で切り捨てが決まった場合が該当する。入居者が自己破産し、破産手続の中で家賃債権が免責対象となった場合も、この類型に近い扱いとなる。私の経験では、入居者の自己破産が確定し破産管財人から「配当なし」の通知が届いたケースがあり、この段階で残債権の回収不能が法的に裏付けられた。通知書類は必ず保管し、確定申告時の根拠資料として残している。

事実上の貸倒れ:債務者の資産状況から回収不能と判断するケース

2つ目は「事実上の貸倒れ」で、債務者の資産状況・支払能力等からその全額が回収できないことが明らかになった場合に、その明らかになった時点で貸倒れとして計上できる。ただし、この判断は主観的になりやすく、税務署から「本当に回収不能だったのか」を問われた際に説明できる根拠が必要だ。私が過去に対応したケースでは、入居者が失踪し、勤務先も退職済みで、督促状も宛先不明で返送されてきた。この状況を「入居者の所在不明・収入なし」という事実として記録し、内容証明郵便の返送履歴、電話が通じない履歴、督促の記録を一式まとめて保管した。こうした客観的な証拠の積み重ねが「事実上の貸倒れ」を主張する根拠になる。

形式上の貸倒れ:一定期間取引停止後の債権額を切り捨てるケース

3つ目は「形式上の貸倒れ」で、同一債務者との取引を停止した後1年以上経過した場合などに、その債務者に対する債権額から備忘価額(1円など)を差し引いた残額を貸倒れとして計上できる。この形式基準は後述する少額債権の処理とも関連するが、賃貸借契約が終了し新たな取引(再入居)がない状態が1年以上継続していることが前提となる。私が経験した長期滞納の退去案件では、退去完了から1年経過した時点でこの形式基準の適用を検討し、税理士と相談のうえで残債権を貸倒処理した。3要件のどれに該当するかで必要な証拠資料が異なるため、早い段階から税理士に相談しながら記録を整理しておくべきだ。私の場合、退去済み物件については「退去日」「最終督促日」「連絡不通確認日」の3つの日付を必ず記録に残し、そこから1年経過した時点で税理士に貸倒処理の相談を持ちかけるという社内ルール的な運用にしている。数字で言えば、私が過去に処理した滞納債権のうち、法律上の貸倒れに該当したのは1件、事実上の貸倒れが2件、形式上の貸倒れが3件で、いずれも根拠資料の準備に1〜2週間ほどかけている。

⚠️ 失敗談

私は以前、滞納が4ヵ月続いた時点で「もう返ってこないだろう」と自己判断し、確定申告で未収家賃を収入から除外してしまったことがある。翌年、入居者が知人からの借入で滞納分の一部を実際に支払ってきたため、収入計上のタイミングがずれて修正申告が必要になった。回収不能の判断は自分の感覚ではなく、法律上・事実上・形式上のいずれかの要件を満たしているかを確認してから行うべきだと痛感した一件だ。

事業的規模なら使える貸倒引当金:一括評価と個別評価の繰入計算

不動産所得が「事業的規模」(目安として一戸建て概ね5棟以上、アパート等概ね10室以上)と認められる場合、青色申告者は貸倒引当金という制度を使い、まだ貸倒れが確定していない段階でも将来の回収不能リスクに備えて一定額を必要経費に計上できる。私が運営する9棟のうち、独立した貸家とアパートを合わせた貸室数は事業的規模の基準を満たしており、実際にこの制度を利用している。貸倒引当金には「一括評価」と「個別評価」の2種類があり、それぞれ計算方法が異なる。

一括評価による繰入限度額の計算

一括評価は、事業的規模の不動産所得者が年末時点で有する未収賃貸料などの金銭債権の総額に対して、一定の繰入率(実績率または法定繰入率)を掛けて繰入限度額を計算する方法だ。個人の場合、法定繰入率(貸金業以外の一般事業で概ね5.5/1000程度、業種により異なる)を使うケースが多い。例えば年末時点の未収賃貸料残高が100万円ある場合、法定繰入率を適用すると数千円から1万円程度の繰入額になる計算だが、実際の繰入率は業種区分や年度によって定められた数値を確認する必要がある。この繰入額は必要経費として計上できるが、翌年は原則としていったん取り崩して収入に戻し、再度その年末の残高に応じて繰り入れる仕組みになっている。

個別評価による繰入計算:回収困難な特定債権への対応

個別評価は、特定の債務者について債権の一部が回収不能となる可能性が高い場合に、その債権額の50%相当額などを個別に繰入計上できる制度だ。例えば長期滞納中の入居者に対する未収家賃が30万円あり、更生手続の申立てなど一定の事由に該当する場合、その50%である15万円を個別評価による貸倒引当金として繰り入れられる。ただし個別評価には債務者の状況について一定の法的事由(会社更生法の更生手続開始の申立てなど、個人の賃貸経営ではあまり多くない事由)が要件とされることが多く、個人大家が実際に使う機会は一括評価に比べて限定的というのが私の実感だ。適用要件は年度によって変更されることがあるため、繰入計算を行う際は必ず税理士に最新の要件を確認してほしい。

貸倒引当金を使うかどうかの判断軸

私が9棟運営の中で貸倒引当金の適用を判断する際の軸は、「年末時点で未収入金がどの程度残っているか」と「その事務負担に対して繰入額のメリットが見合うか」の2点だ。一括評価の繰入額は法定繰入率を掛けるだけの小さな金額になることが多く、正直なところ税負担の軽減効果自体は限定的だ。しかし、未収賃貸料の残高を年末ごとに正確に把握する習慣が強制的に身につくという副次的な効果があり、私はこの管理の手間を惜しまず継続している。逆に、事業的規模に該当しない小規模な大家であれば、貸倒引当金の制度自体が使えないため、回収不能が確定した時点での貸倒損失の計上に集中する方が実務上シンプルだ。

処理方法 適用条件 タイミング 主な効果
貸倒損失(法律上) 更生計画認可・破産免責等で債権が法的に消滅 消滅が確定した年 全額を必要経費化
貸倒損失(事実上) 債務者の資産状況等から回収不能が明らか 回収不能が明らかになった年 全額を必要経費化
貸倒損失(形式上) 取引停止後1年以上経過 1年経過後の年 備忘価額を除く全額を経費化
貸倒引当金(一括評価) 事業的規模・青色申告者 毎年末の残高に応じて繰入・翌年取崩 繰入率相当額を経費化(未確定リスクに備える)
貸倒引当金(個別評価) 特定債務者に法的事由が発生 事由発生時 債権額の一定割合を経費化

少額の継続的取引なら使える形式基準:一定額を貸倒れにできるケース

先述の「形式上の貸倒れ」の中には、少額・少額な継続的取引に関する特則的な考え方がある。継続的な取引を行っていた債務者について、その債務者に対する売掛債権等(未収家賃も含まれ得る)の総額が、その取引を停止した後、支払いを督促しても弁済がない場合に、一定の債権額を貸倒れとして経費計上できるという整理だ。賃貸経営における未収家賃も、賃貸借契約という継続的取引に基づく債権であるため、この考え方が援用されるケースがある。私が9棟の運営で経験した中では、滞納額が5万円程度と少額で、退去済みかつ入居者本人と連絡が取れなくなったケースについて、督促の記録を残した上でこの基準の適用を税理士に相談したことがある。少額とはいえ複数件が積み重なれば無視できない金額になる。例えば5万円の滞納が5件重なれば25万円になり、これを放置し続けるかどうかで年間の必要経費計上額が変わってくる。

督促の実施と記録が判断の分かれ目になる

形式基準を適用する上で重要なのは、「督促をしたが弁済がなかった」という事実を客観的に示せることだ。私は滞納が発生した時点から、電話連絡・書面での督促・内容証明郵便による督促という段階を踏み、それぞれの実施日と結果を記録している。特に内容証明郵便は日本郵便が発送日と内容を証明してくれるため、税務上の証拠力が高い。督促を1回しただけで「回収不能」と判断するのは弱く、複数回・複数の手段で督促を尽くしたという記録があるほど、貸倒処理の説得力が増す。

少額債権でも放置せず処理することの意味

少額だからといって未収家賃を放置すると、帳簿上は永久に「未収入金」として資産に残り続け、実態と帳簿がずれていく。私の経験では、複数の少額滞納が積み重なると、数年後にまとめて処理しようとした際にどの入居者のいつの分か特定するのに手間がかかった。少額であっても発生年度ごとに個別に管理し、回収不能が明らかになった時点で早めに貸倒処理する方が、後年の帳簿整理の負担を大きく減らせる。数字で言えば、私が滞納管理を月次で行うようになってから、年末の未収入金残高の棚卸し(照合)にかかる時間は以前の半分以下になった。

💡 判断のポイント

貸倒処理をするかどうかを迷ったら、「この債権を今、他人に売るとしたら誰かが買うか」を自分に問うのが一つの判断軸になる。回収の見込みがまったくなく、督促の記録も揃っているなら、その債権はもう資産価値がないと考えて処理すべきタイミングだ。機械設計で不良品を「まだ使えるかも」と抱え続けずに早期に判断するのと同じ発想で、滞納債権も見込みが薄いなら早めに切る方が経理も資金繰りもすっきりする。

滞納家賃を放棄・免除する場合:債権放棄の税務処理

回収の見込みが薄い滞納家賃について、大家側が明示的に「債権を放棄する(請求しない)」という意思表示をするケースもある。退去交渉の中で「敷金は返さないが、滞納分の請求もしない」といった和解に近い形で処理することは実務上よくある。この場合、放棄した債権額は貸倒損失として必要経費に計上できるのが基本的な考え方だ。ただし、単に「請求をやめた」というだけでは根拠が弱く、放棄した事実と金額を明確にする書面が必要になる。

債権放棄書・合意書の作成が必須

私が実際に滞納入居者との退去交渉で債権放棄を行った際は、「甲(大家)は乙(入居者)に対する未払賃料〇〇円の請求権を放棄し、以後請求しない」という一文を含む合意書を作成し、双方が署名押印した。この書面がなければ、税務上「本当に放棄したのか、単に取り忘れているだけなのか」を区別できず、貸倒処理の根拠として弱くなる。放棄の合意書は、退去時の敷金精算書や原状回復費用の合意書とセットで作成することが多く、私は退去手続きのテンプレートにこの放棄条項をあらかじめ組み込んでいる。

債権放棄が入居者側の課税(債務免除益)に関わる可能性

大家側が債権を放棄すると、入居者側では「債務免除益」が生じ、場合によっては入居者に一時所得等の課税関係が生じる可能性がある。個人間の少額な家賃債権の放棄でここまで問題になるケースは実務上多くはないが、法人契約や高額な滞納の場合は注意が必要な論点だ。私自身は個人の入居者を相手にした少額の債権放棄が中心なので大きな問題になったことはないが、金額が大きい場合や相手が事業者の場合は、大家側だけでなく入居者側の税務影響も含めて税理士に確認するのが安全だ。

債権放棄と貸倒損失の区別を明確にする

実務上、「回収不能で貸倒処理した」のか「大家が自主的に放棄した」のかは、税務上似た結果(未収家賃を経費化する)になるように見えても、根拠となる事実がまったく異なる。回収不能による貸倒損失は「もう取れない」という客観的状況が前提であり、債権放棄は大家が「取れるかもしれないが請求しない」という意思決定をした場合だ。私はこの2つを混同しないよう、社内の処理記録に「貸倒損失(事実上)」「債権放棄」というラベルを分けて記帳し、根拠資料(督促記録か合意書か)もセットで保管している。この区別を曖昧にすると、税務調査で「なぜこの金額を経費にしたのか」を一貫して説明できなくなるリスクがある。

家賃保証会社から代位弁済を受けた場合の収入計上

近年は入居時に家賃保証会社(賃貸保証会社)と契約するケースが増えており、入居者が滞納した場合に保証会社が大家に対して家賃相当額を「代位弁済」する仕組みが一般的になっている。私が管理する物件の多くも家賃保証会社を利用しており、実際に過去数年で複数件の代位弁済を受けた経験がある。この場合の税務処理は、代位弁済を受けた家賃も通常の家賃収入と同じく不動産所得の収入として計上するのが原則だ。

代位弁済のタイミングと収入計上時期

発生主義の原則からすれば、家賃はそもそも入居者の支払期日をもって収入計上済みのはずであり、保証会社からの代位弁済はあくまで「誰が払ったか」の問題であって、収入計上のタイミング自体には影響しないという考え方が基本になる。つまり、月8万円の家賃について入居者からの直接払いがなく保証会社が代わりに8万円を支払った場合でも、その8万円はもともと発生主義で収入計上していた家賃の「入金」に過ぎず、二重に収入計上する必要はない。実務上重要なのは、未収入金として計上していた家賃が、入金元が保証会社に変わっただけという整理を帳簿上できちんと反映することだ。

保証会社が代位弁済後に入居者へ請求する分の扱い

保証会社は大家に代位弁済した後、入居者本人に対してその立替分を請求する(いわゆる代位取得)。この入居者と保証会社との間の債権債務関係は、大家の税務処理には直接関係しない。大家側としては、保証会社からの代位弁済を受けた時点で未収入金が消え、現金(または預金)が増えるという処理を行うだけでよい。私の経験では、保証会社の代位弁済は入居者の滞納開始から2〜3ヵ月程度で実行されることが多く、長期の未収家賃リスクを大きく軽減してくれる。私が新規に契約するテナントには原則として保証会社の利用を条件にしているのは、この代位弁済による収入の安定化が主な理由だ。

保証会社利用のコストと税務上のメリットを比較する

家賃保証会社を利用するには、入居者側が保証料(初回契約時に家賃の30〜50%程度、更新時にも一定額)を支払うのが一般的で、大家側の直接的なコスト負担は少ない。私が過去に保証会社なしで運営していた物件と、保証会社ありで運営している物件を比較すると、保証会社なしの物件では長期滞納(3ヵ月以上)の発生率が明らかに高く、貸倒処理や訴訟対応にかかる手間・費用も保証会社なしの物件に集中していた。税務上の観点で言えば、保証会社を利用することで未収家賃が長期化しにくくなり、結果として貸倒損失や弁護士費用といった「望ましくない経費」の発生自体を減らせる。経費を作るために保証会社を使うわけではないが、キャッシュフローの安定と税務処理の簡素化という2つの効果は数字としても実感している。

退去・明渡しにかかる弁護士費用・強制執行費用の経費計上

滞納が長期化し、入居者との交渉で解決しない場合、最終的には訴訟(明渡訴訟)や強制執行の手続きに進むことがある。私は9棟の運営の中で、幸い強制執行まで至ったケースは限られているが、内容証明郵便での督促から弁護士への相談、訴訟提起、和解、強制執行の申立てまでを経験したケースが複数ある。これらにかかる弁護士費用・訴訟費用・執行費用は、不動産所得を生み出すための必要経費として計上できるのが基本的な考え方だ。

弁護士費用の内訳と経費計上の考え方

明渡訴訟にかかる弁護士費用は、着手金・成功報酬・実費(裁判所への手数料や郵送費等)などに分かれる。私が経験した明渡訴訟のケースでは、着手金が20万円台、解決後の成功報酬が回収できた滞納額に応じて発生し、合計で数十万円規模のコストがかかった。これらは物件の賃貸経営を維持し、次の入居者を確保するために必要な支出であるため、不動産所得の必要経費として計上している。金額が大きい場合は、支払った年の経費として一括計上するのが通常だが、内容によっては顧問料的な性質を含む場合もあるため、契約書・請求書の内訳を保存し、税理士と相談しながら経費区分を決めている。

強制執行費用と原状回復費用の区分

強制執行(明渡しの強制執行)には、執行官への手数料、荷物の運搬・保管費用(執行補助業者への支払い)などが発生する。私が経験したケースでは、強制執行の実施費用が数十万円かかったこともあり、決して小さな負担ではなかった。これらの費用は明渡しを実現するための費用として必要経費に計上できる。一方、明渡し後の原状回復費用(クロス張替え、清掃、設備の修繕など)は別の費目として扱う。私は原状回復の多くを自分でDIY施工しており、業者に依頼する場合の費用の概ね5分の1以下のコストで済ませているが、この原状回復費用と明渡しのための弁護士・執行費用は帳簿上分けて記録し、それぞれの支出の性質(資本的支出か修繕費か、訴訟関連費用か)を明確にしておくことが、確定申告時の説明のしやすさにつながっている。

まとめ:滞納対応中の大家が課税所得を過大に計上しないための実務

不動産所得は原則として発生主義で計算されるため、滞納中であっても契約家賃は収入として計上しなければならない。この原則を理解していないと、入金と課税所得のズレに気づかず、資金繰りの見通しを誤る。一方で、回収不能が確定した段階では、法律上・事実上・形式上のいずれかの要件を満たすことで貸倒損失として経費化でき、事業的規模の大家であれば貸倒引当金(一括評価・個別評価)によって未確定の回収不能リスクにも備えられる。少額の継続的取引についても、督促を尽くした記録があれば形式基準で貸倒処理できる可能性がある。債権を放棄する場合は合意書などの書面を残し、家賃保証会社から代位弁済を受けた場合は二重計上に注意しながら未収入金の消込として処理する。明渡しに至った場合の弁護士費用・強制執行費用も必要経費として計上できる。私自身、9棟の運営を通じて痛感したのは、滞納対応は入居者とのやり取りだけでなく、その一つひとつの局面で「今、税務上どう処理すべきか」を記録しながら進める姿勢が不可欠だということだ。督促の履歴、合意書、破産管財人からの通知、保証会社からの支払通知、弁護士費用の請求書など、根拠資料を残しておくことが、後々の確定申告や税務調査での説明力を大きく左右する。滞納は精神的にも負担が大きい局面だが、税務処理を正しく行うことで、少なくとも「払われていないお金に余分な税金がかかる」という事態を避けられる。個々のケースは状況によって結論が変わるため、貸倒損失や貸倒引当金の適用を検討する際は、必ず税理士に事前相談し、2026年時点の最新の取扱いを確認しながら進めてほしい。

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