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9棟を1つの保険戦略でまとめる:物件別リスクに応じた補償の使い分けと包括契約の損得

大家のリアル

複数棟を保有するようになって痛感したのは、火災保険を「全棟同じプランで揃える」ことがコスト面でも保障面でも最適解ではないという事実だ。私は現在、木造・鉄骨・RCが混在する収益不動産を9棟保有しているが、当初は代理店に勧められるまま全棟に水災・地震・孤独死特約をセットで付けていた。年間保険料はトータルで約98万円。その後、物件ごとにハザードマップと構造・入居者属性を照らし合わせて付保内容を組み直した結果、保障の薄い部分を補強しながらも年間保険料は約71万円まで下がった。差額は約27万円、率にして約28%の圧縮だ。これは単に「安い保険に乗り換えた」のではなく、リスクが低い物件から不要な特約を外し、リスクが高い物件には逆に手厚くした結果である。機械設計の仕事では、部品ごとに必要な強度基準を分けて過剰設計と強度不足を同時に排除するのが基本だが、保険もまったく同じ発想で組み立てられる。本稿では、9棟という複数物件を「1つのポートフォリオ」として捉え、構造・築年・立地・入居者属性でリスクを分類し、水災・地震・孤独死保険・免責金額を物件別に最適化しながら、包括契約と複数社分散のトレードオフ、満期をずらすローリング更新、そして管理表による年次点検フローまでを、実務の数字とともに解説する。

  1. 1. 物件を4軸でリスク分類する:構造・築年・立地・入居者属性
    1. 構造軸:木造・鉄骨・RCで火災リスクと保険料率が変わる
    2. 築年軸:躯体の劣化度が水漏れ・漏電リスクに直結する
    3. 立地(ハザード)軸:浸水想定区域か否かで水災の要否が決まる
    4. 入居者属性軸:単身高齢者比率が孤独死保険の要否を決める
  2. 2. 水災・地震・孤独死保険を物件ごとに最適化する具体的な考え方
    1. 水災は浸水想定区域の物件だけに絞る判断軸
    2. 地震保険は高レバレッジ物件だけに絞る判断軸
    3. 孤独死保険は単身高齢比率で線引きする
  3. 3. 全棟一律補償のムダと不足を同時に解消する考え方
    1. 低リスク物件の過剰付保というムダの構造
    2. 高リスク物件の補償不足という危険の構造
    3. ムダと不足を同時に解消する「メリハリ設計」の効果
  4. 4. 包括契約(複数物件1証券)のメリットとデメリット
    1. 包括契約のメリット:割引と管理簡素化
    2. 包括契約のデメリット:条件変更の一括適用とリスク分散の欠如
    3. 包括契約と複数社分散のバランスをどう取るか
  5. 5. 免責金額を資金力に応じて引き上げ、小損害はキャッシュで受ける戦略
    1. 免責金額を引き上げる考え方:小損害の自己完結
    2. 小損害を自己完結させる判断軸:キャッシュリザーブとの比較
    3. 免責金額を全棟一律にしない:高リスク物件は低めに残す
  6. 6. 満期をずらすローリング更新で料率改定・条件劣化に対応する
    1. 満期を1点に集中させるリスク
    2. ローリング更新の具体的なやり方
    3. ローリング更新のコスト面の効果
  7. 7. 9棟の保険を1枚で棚卸しする管理表と年次点検フロー
    1. 管理表に必要な項目設計
    2. 年次点検フローの具体的な流れ
    3. 管理表がもたらす副次的なメリット
  8. まとめ:保険はポートフォリオとして設計するものである
    1. 🛡️ 保険、いまの内容で足りているか不安なら

1. 物件を4軸でリスク分類する:構造・築年・立地・入居者属性

複数棟の保険を見直す最初のステップは、全棟を並べて「同じ土俵で比較できる分類軸」を作ることだ。私が実際に使っているのは、構造・築年・立地(ハザード)・入居者属性の4軸である。この4軸で9棟を整理すると、驚くほど物件ごとの性格が違うことが可視化される。同じ「アパート経営」でも、木造築40年の物件と、鉄骨造築8年の物件では、火災・水災・地震それぞれのリスクの重みが全く異なる。

構造軸:木造・鉄骨・RCで火災リスクと保険料率が変わる

構造は火災保険料率を決める最も基本的な軸だ。一般に木造(H構造)は鉄骨造(T構造)やRC造(M構造)より保険料率が高く設定されている。私が保有する9棟のうち、木造は4棟、鉄骨造は3棟、RC造は2棟という構成だが、木造4棟の年間保険料合計は鉄骨3棟の合計とほぼ同水準になっている。棟数が少ないのに保険料が同等ということは、木造物件ほど「保険料に占める火災リスク分の比重」が大きいことを意味する。ここで判断すべきは、木造物件については築年や周辺環境(隣地との距離、消防車の進入路の有無)を細かく見て、延焼リスクが低いと判断できる物件では類焼損害保険金の特約を絞るといった調整だ。逆に密集地の木造アパートでは、この特約を厚めに残す。

築年軸:躯体の劣化度が水漏れ・漏電リスクに直結する

築年数は水濡れ損害や電気系統トラブルのリスクに直結する。私の9棟のうち、築30年を超える物件は3棟あり、いずれも給排水管の更新履歴を確認した上で保険設計をしている。築古で配管未更新の物件では、漏水による水濡れ損害が過去に実際に発生した経験がある。ある築35年の木造アパートで、2階の給湯器配管の劣化から水が漏れ、1階の部屋の壁と床を含めて補修費用が約42万円かかった。保険で水濡れ損害をカバーしていたため自己負担は免責金額の3万円のみで済んだが、この経験から築25年以上の物件では水濡れ損害の補償を外さない、という社内ルール(と言っても私一人の判断基準だが)を設けている。逆に築8年のRC物件は配管もまだ新しく、水濡れ損害の頻度は低いと判断し、免責金額を高めに設定してコストを抑えている。

立地(ハザード)軸:浸水想定区域か否かで水災の要否が決まる

立地軸で最も重要なのは、各自治体が公開しているハザードマップ上で浸水想定区域に入っているかどうかだ。私は9棟すべての所在地をハザードマップで確認し、浸水想定区域(想定浸水深0.5m以上)に該当する物件が2棟、想定区域外だが河川からの距離が近い物件が1棟、残り6棟は浸水想定区域外という結果だった。この結果を受けて、水災補償を厚く付けるのは浸水想定区域の2棟に絞り、河川近接の1棟は水災補償を最低限残し、それ以外の6棟は水災補償を外す方向で検討した。ハザードマップは自治体のサイトで無料公開されており、確認に費用はかからない。この一手間を惜しんで全棟に水災補償を付けていた頃と比べると、水災特約だけで年間約9万円の圧縮になった。

入居者属性軸:単身高齢者比率が孤独死保険の要否を決める

入居者属性は、賃貸経営者向けの孤独死保険(退去後の原状回復費用や次の入居までの空室損失をカバーする特約)の要否を判断する軸になる。私の9棟のうち、単身高齢者の入居比率が高い物件(全体の入居者の半数以上が単身高齢者)は2棟あり、これらには孤独死保険を付けている。一方、ファミリー向けの物件や、単身でも比較的若い社会人層が多い物件では、この特約を外している。孤独死保険の年間コストは1棟あたり数千円から1万円台と決して高額ではないが、9棟すべてに付けると管理コストと保険料の両方が積み上がる。属性ごとに要否を判断することで、必要な物件には手厚く、不要な物件はコストゼロにできる。

2. 水災・地震・孤独死保険を物件ごとに最適化する具体的な考え方

4軸でのリスク分類ができたら、次は特約単位で「この特約はどの物件に必要か」を個別に判断する。全棟一律ではなく、特約ごとに要否のマトリクスを作るのがポイントだ。

水災は浸水想定区域の物件だけに絞る判断軸

水災補償は、ハザードマップの想定浸水深と、建物の高さ(1階の床面高さ)を組み合わせて判断する。想定浸水深が0.5m未満で、かつ1階の床面が周辺地盤より50cm以上高い物件であれば、水災リスクは限定的と判断できる。私の場合、9棟中2棟が浸水想定区域に該当し、この2棟のみ水災補償を最大限(建物評価額の100%相当)で維持した。残り7棟は水災補償を外すか、最低限の割合まで縮小した。ここで注意したいのは、水災補償を外す際に「今後、ハザードマップが更新されて想定区域が拡大する可能性」を織り込んでおくことだ。私は年1回、契約更新のタイミングで自治体の最新ハザードマップを再確認し、区域指定が変わっていないかをチェックしている。

地震保険は高レバレッジ物件だけに絞る判断軸

地震保険は火災保険とセットでしか加入できず、保険料も相応に高い。私は地震保険の要否を「その物件のローン残高と自己資本の比率(レバレッジ)」で判断している。フルローンや高レバレッジで購入した物件は、地震による建物損壊が発生した場合、ローンだけが残るリスクが大きい。逆に、既に完済している物件や自己資本比率が高い物件は、地震による損失を自己資金で吸収できる余地がある。私の9棟のうち、購入時のローン比率が80%を超える物件は3棟あり、この3棟には地震保険を付けている。完済済みの2棟と、ローン比率が50%以下の4棟については地震保険を外し、その分の保険料を他の特約や免責金額の調整原資に回している。地震保険は建物評価額の最大50%までしか付保できない制度上の制約もあるため、「フルカバーできない前提でどこまで守るか」という判断が必要になる。

孤独死保険は単身高齢比率で線引きする

孤独死保険(正式名称は保険会社により異なるが、原状回復費用・空室損失・遺族対応費用などをカバーする特約群)は、単身高齢者の入居比率が全体の3割を超える物件を目安に付保を検討している。私の9棟では2棟がこの基準に該当し、孤独死保険を付けている。この2棟は駅から少し離れた立地で、家賃も比較的抑えめなため、単身高齢者の入居が多い傾向がある。実際、このうち1棟では過去に孤独死に近い事案(発見が遅れたケース)が発生し、原状回復に通常より高額な費用がかかった経験がある。特約でカバーされた金額は詳細を伏せるが、少なくとも自己負担だけで対応していたら躊躇するレベルの費用感だった。この経験から、単身高齢者比率の高い物件では孤独死保険を外さない、という基準を明確にしている。

⚠️ 失敗談

保有初期、代理店から勧められた「全棟一律プラン」をそのまま受け入れてしまい、浸水想定区域外の物件にも水災補償をフルで付けていた。5年間で見ると、この物件だけで水災特約に払った保険料は合計約18万円。一度も水災は発生せず、結果的には払わなくてよかった保険料だった。もちろん保険は「使わなかったら得」という単純な話ではないが、ハザードマップを確認する5分の手間を惜しんだために、明らかにリスクの低い物件に不要な特約を付け続けていたのは反省点だ。

3. 全棟一律補償のムダと不足を同時に解消する考え方

複数棟を保有する大家が陥りやすいのが、「全棟同じ内容にしておけば安心」という発想だ。しかし実際には、この発想は2つの問題を同時に生む。低リスク物件への過剰付保(ムダ)と、高リスク物件への補償不足(危険)である。

低リスク物件の過剰付保というムダの構造

低リスク物件、たとえば浸水想定区域外・耐震性の高いRC造・築浅・ファミリー向けの物件に、水災・地震・孤独死保険をすべてセットで付けるのは、リスクに対して保険料が過大になっている状態だ。私の9棟のうち、このカテゴリに近い物件は2棟あるが、以前はここにも他の物件と同じフルセットの特約を付けていた。見直し後、この2棟だけで年間の特約保険料が約6万円減少した。過剰付保は「安心料」として捉える考え方もあるが、9棟分をすべて過剰にすると、その安心料の総額は決して小さくない。

高リスク物件の補償不足という危険の構造

逆に、高リスク物件(浸水想定区域内・高レバレッジ・築古で配管未更新など)に対して、コスト削減の名目で補償を薄くしてしまうのは本末転倒だ。保険は「発生確率は低いが発生したときの損失が大きい」リスクに備えるものであり、高リスク物件こそ手厚くするべきだ。私の場合、見直し前は9棟すべてに同じ免責金額(3万円)を設定していたが、浸水想定区域内の2棟については、水災補償の付保金額を建物評価額の100%まで引き上げ、他の物件より手厚くした。全棟一律だった頃は、この2棟の水災補償は建物評価額の70%程度に留まっていたため、実質的には補償不足の状態だったことになる。

ムダと不足を同時に解消する「メリハリ設計」の効果

物件ごとにリスクに応じてメリハリをつけた結果、9棟全体の年間保険料は約27万円減少したが、同時に高リスク物件2棟の水災補償は厚くなっている。これは「保険料を下げながら守りを強くする」という、一見矛盾するようだが実際には両立可能な結果だ。理由は単純で、低リスク物件から浮いた保険料の一部を、高リスク物件の補償強化に再配分しているからだ。全体のコストを下げつつ、リスクの高い部分への集中度を上げる。これは工学的な最適配分の発想であり、限られた予算(保険料)をどこに重点配分するかという判断そのものだ。

特約 付保を検討する物件の条件 私の9棟での該当数
水災補償 浸水想定区域内、または河川近接で1階床面高さが低い 2棟(厚め)+1棟(最低限)
地震保険 ローン比率(レバレッジ)80%超 3棟
孤独死保険 単身高齢者入居比率30%超 2棟
水濡れ損害 築25年超、かつ配管未更新 3棟

4. 包括契約(複数物件1証券)のメリットとデメリット

複数棟を保有すると、保険会社や代理店から「包括契約(複数物件を1つの証券にまとめるプラン)」を提案されることが多い。私も9棟のうち6棟を1つの包括契約にまとめている時期があった。ここではそのメリットとデメリットを、実際の経験から整理する。

包括契約のメリット:割引と管理簡素化

包括契約の最大のメリットは、複数物件をまとめることによる割引と、契約更新・保険金請求時の管理の簡素化だ。私が6棟を1つの証券にまとめていたときは、個別契約と比べて保険料が約8%割引になっていた。また、更新時期が1つに統一されるため、毎年1回の更新作業で済み、9棟それぞれの満期を個別に管理する手間が大幅に減った。契約書類も1枚(実際には複数ページだが証券番号は1つ)にまとまるため、確定申告時の保険料の集計作業も楽になる。管理の手間が減ることは、大家業を一人または少人数で回している場合、地味だが大きなメリットだ。

包括契約のデメリット:条件変更の一括適用とリスク分散の欠如

一方で、包括契約には明確なデメリットもある。1つは、更新時に保険会社側の条件変更(料率改定や特約内容の見直し)が、まとめた物件すべてに一括で適用される点だ。個別契約であれば、物件ごとに他社の見積もりを取って乗り換えるといった交渉ができるが、包括契約では「まとめて更新するか、まとめて解約するか」の二択に近くなり、交渉力が弱まる。もう1つは、保険会社1社に依存することによるリスクの集中だ。仮にその保険会社の経営状況が悪化したり、大規模災害で保険会社自体の支払い能力に懸念が生じたりした場合、9棟のうち多くを1社に依存していると影響が大きくなる。私はこの経験を踏まえ、包括契約は6棟でまとめつつ、残り3棟は別の保険会社と個別契約を維持する形に組み直した。

包括契約と複数社分散のバランスをどう取るか

私の現在の運用は、リスク特性が似ている物件群(木造・築古・地方エリアなど)を1つの包括契約にまとめ、リスク特性が異なる物件群(RC・築浅・都心エリアなど)は別の保険会社と契約するという「2〜3グループに分けた包括契約」だ。これにより、割引と管理簡素化のメリットを一定程度享受しながら、1社への依存度を下げている。9棟全部を1社にまとめれば割引率はさらに上がるかもしれないが、交渉力の低下と依存リスクの集中を考えると、私はグループ分けを選んでいる。この判断に絶対的な正解はなく、保有物件数や資金力、保険会社との関係性によって最適な分割数は変わる。

💡 判断のポイント

包括契約にまとめるかどうかは「割引率」だけで決めず、更新時の交渉力低下と保険会社への依存度も合わせて評価する。私の目安は、1社への依存が総保険料の7割を超えないようにグループ分けすること。9棟であれば2〜3グループに分けるのが管理コストと分散の落としどころだと感じている。

5. 免責金額を資金力に応じて引き上げ、小損害はキャッシュで受ける戦略

保険料を下げる手段として、特約の取捨選択と並んで効果が大きいのが免責金額(自己負担額)の設定だ。免責金額を引き上げると保険料は下がるが、小さな損害は自分の資金で対応する必要がある。この判断は「資金力に応じて」行うべきだと考えている。

免責金額を引き上げる考え方:小損害の自己完結

免責金額とは、損害が発生した際に保険金が支払われる前に自己負担する金額のことだ。私は保有初期、9棟すべてで免責金額を3万円に設定していたが、事業が安定し、キャッシュリザーブ(緊急時の手元資金)を十分に確保できるようになった段階で、多くの物件で免責金額を5万円から10万円に引き上げた。免責金額を引き上げると保険料は下がる。私の場合、免責金額を3万円から10万円に上げたことで、対象物件の年間保険料が1棟あたり平均で1万円弱下がった。9棟のうち6棟でこの引き上げを行ったため、合計で年間約5万円のコスト削減につながっている。

小損害を自己完結させる判断軸:キャッシュリザーブとの比較

免責金額を引き上げる判断は、単に「保険料が下がるから」というだけでなく、自分が保有する緊急資金(キャッシュリザーブ)と比較して行うべきだ。私の目安は、免責金額×保有棟数の合計が、保有するキャッシュリザーブの3分の1を超えないようにすることだ。9棟で免責金額10万円なら、最悪すべての物件で同時に小損害が発生しても90万円の自己負担で済む計算になる。この90万円が、自分のキャッシュリザーブの3分の1以内であれば、引き上げても資金繰りに支障はないと判断している。逆に、キャッシュリザーブが薄い状態で免責金額を無理に上げるのは、保険料の節約と引き換えに資金リスクを高めるだけなので避けるべきだ。

免責金額を全棟一律にしない:高リスク物件は低めに残す

免責金額の引き上げも、全棟一律にはしていない。水濡れ損害のリスクが高い築古物件(築25年超・配管未更新)については、免責金額を5万円程度に抑え、頻度の高い小損害でも保険金を受け取れるようにしている。逆に、築浅で配管も新しいRC物件については免責金額を10万円まで上げ、保険料を最大限圧縮している。ここでも「リスクが高い物件は手厚く、低い物件は薄く」という基本方針が一貫している。免責金額の設定は保険料削減の手段であると同時に、物件ごとのリスクプロファイルを反映させる調整弁として機能する。

6. 満期をずらすローリング更新で料率改定・条件劣化に対応する

火災保険は近年、自然災害の増加を背景に料率改定が続いており、契約更新のたびに条件が変わることが珍しくない。9棟という複数物件を保有していると、この料率改定への対応を「一度にまとめて」行うか「毎年少しずつ」行うかで、実務上の負担が大きく変わる。

満期を1点に集中させるリスク

包括契約で全棟の満期を1つにまとめると、更新のタイミングで料率が大きく上がっていた場合、その影響を9棟分まとめて一気に受けることになる。近年の火災保険料率の改定傾向を見ると、数年おきに数%〜十数%単位の引き上げが行われることがあり、満期が集中していると、その年だけ保険料負担が急増するリスクがある。私は過去に、6棟を1つの包括契約でまとめていた際、更新年にちょうど大きな料率改定のタイミングが重なり、保険料が前年比で大きく上昇した経験がある。この経験から、満期を分散させる「ローリング更新」の重要性を実感した。

ローリング更新の具体的なやり方

ローリング更新とは、9棟の満期を年ごとに分散させ、毎年どこかの物件(またはグループ)の契約を見直すサイクルを作ることだ。私の現在の運用では、9棟を3つのグループ(各3棟)に分け、それぞれ満期を1年ずらしている。これにより、毎年必ず1グループ(3棟分)の見直しタイミングが来る。見直しの際は、既存の保険会社の更新条件を確認するだけでなく、他社の見積もりも取り、料率や特約内容を比較する。ローリング更新にしたことで、料率改定の影響を毎年3分の1ずつ受ける形になり、ある年に急激な負担増が来るリスクを平準化できている。また、毎年見直しの機会があることで、市場全体の保険料動向やハザードマップの更新状況を定期的にキャッチアップできるという副次効果もある。

ローリング更新のコスト面の効果

ローリング更新は保険料そのものを下げる手段ではないが、条件劣化(料率上昇や特約の縮小)への対応を遅らせないという意味で、長期的なコスト最適化に効いている。実際、直近の見直しサイクルでは、1グループ(3棟)について他社の見積もりを取ったところ、既存契約より年間で約4万円安い条件を提示された保険会社があり、そちらに切り替えた。満期が分散していなければ、この比較検討の機会自体が3年に1回しか巡ってこなかったはずだ。毎年どこかを見直す仕組みは、市場の変化に継続的に対応するための「仕組み化」だと捉えている。

7. 9棟の保険を1枚で棚卸しする管理表と年次点検フロー

物件ごとにリスク分類し、特約を最適化し、包括契約と複数社分散のバランスを取り、免責金額を調整し、満期をローリングさせる。ここまでの判断をすべて頭の中だけで管理するのは9棟規模になると非現実的だ。私は全棟の保険情報を1枚の管理表(実際にはExcelシート)に棚卸しし、年1回(実際には満期分散のため実質的に毎回)点検するフローを組んでいる。

管理表に必要な項目設計

私の管理表には、物件名、構造、築年数、所在地(ハザード区分)、保険会社名、証券番号、契約形態(個別/包括)、保険金額(評価額)、免責金額、付保している特約の一覧(水災・地震・孤独死・水濡れなど)、年間保険料、満期日、次回見直し予定日という項目を並べている。この項目設計のポイントは、「リスク分類の結果」と「現在の付保内容」を同じ行に並べることだ。これにより、たとえば「浸水想定区域内なのに水災補償が付いていない」といった不整合を一目で見つけられる。9棟×十数項目の表なので、決して大きな表ではないが、これが頭の中の判断をすべて外部化してくれる。

年次点検フローの具体的な流れ

点検フローは、ローリング更新の対象グループについて、満期の2〜3ヶ月前に管理表を見直すところから始まる。まず、対象物件のハザードマップに変更がないか自治体サイトで再確認する。次に、入居者属性(単身高齢者比率など)に変化がないか、賃貸管理会社からの報告や自分の記録で確認する。この2点でリスク分類が変わっていれば、特約の要否を再判断する。その上で、既存の保険会社からの更新条件を確認し、必要であれば他社にも見積もりを依頼して比較する。最終的に、更新後の内容を管理表に反映し、次回見直し予定日を1年後に設定する。この一連の作業は、対象グループ(3棟)につき半日程度で完了する。9棟全体を毎年半日×3回(実質的にはグループごとに時期がずれているので、年間トータルでも1日半程度)で回せている計算だ。

管理表がもたらす副次的なメリット

管理表を整備したことで、確定申告時の保険料集計が楽になったのはもちろんだが、それ以上に大きいのは、新規物件を購入する際の保険設計が速くなったことだ。新しい物件を取得した際も、既存の4軸分類のフォーマットに当てはめるだけで、水災・地震・孤独死保険・免責金額の初期設定の方向性がすぐに定まる。ゼロから考える必要がなく、既存9棟で確立した判断軸をそのまま適用できる。これは規模が大きくなればなるほど効いてくる仕組みであり、10棟目、11棟目を検討する今、この管理表の価値をより強く感じている。

まとめ:保険はポートフォリオとして設計するものである

9棟の火災保険を見直す中で得た最大の学びは、保険を「1棟ごとの個別商品」として捉えるのではなく、「複数物件全体のポートフォリオ」として設計するという視点だった。構造・築年・立地・入居者属性の4軸でリスクを分類し、水災・地震・孤独死保険・免責金額を物件ごとに最適化することで、全棟一律だった頃と比べて年間保険料を約27万円(約28%)圧縮しながら、同時に高リスク物件の補償は厚くすることができた。包括契約と複数社分散はそれぞれにメリットとデメリットがあり、私は2〜3グループに分ける折衷案に落ち着いている。免責金額はキャッシュリザーブとの比較で判断し、満期はローリング更新で分散させることで、料率改定や条件劣化への対応を毎年少しずつ行う仕組みを作った。そして、これらすべての判断を1枚の管理表に棚卸しし、年次点検フローとして運用することで、9棟という規模でも保険設計を継続的に最適化できる体制になっている。保険は「入っておけば安心」という守りの発想だけでなく、限られた保険料予算をどの物件のどのリスクに重点配分するかという、経営判断そのものだ。物件数が増えるほど、この設計の巧拙がコストと安心の両方に直結してくる。なお、火災保険・地震保険の制度や特約内容、税務上の扱いは2026年時点の一般的な考え方に基づくものであり、契約内容の詳細や個別の税務判断については、加入している保険会社・代理店、および税理士等の専門家に必ず確認していただきたい。

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