不動産売買契約を締結する直前、宅地建物取引士から読み上げられる「重要事項説明書(重説)」。枚数にして20〜40ページ、専門用語が並ぶあの書類を前に、「よくわからないけどとりあえず署名した」という経験を持つ方は多いはずです。
私自身、1棟目を購入したときは全く同じ状態でした。当時35歳、会社員としての収入しかなく、不動産投資は完全な初心者。宅建士の説明を聞きながら「これって何が問題なの?」という状態のまま、総額1,280万円の戸建て物件に判を押しました。
それから10年、6棟を取得してきた今だから言えます。重説は「形式上の説明」ではなく、物件のリスクが凝縮された地雷マップです。読み方を知っているかどうかで、後悔のない買い物ができるかどうかが決まります。
重要事項説明書とは何か——契約前の「最後の砦」
重要事項説明書は、宅地建物取引業法35条に基づき、売買・賃貸借の契約締結前に宅建士が買主・借主に対して交付・説明する義務がある書類です。これを怠った場合、業者は行政処分や罰則の対象になります。
つまり、買主にとっては法律が保障した「情報開示の場」です。重説を受けた後に「やはり買わない」と言っても、ほとんどのケースでキャンセルは自由です(手付金を支払った後の解除には注意が必要)。ここが重説の大切なポイントで、「サインするかどうかを決める場所」ではなく「続けるかどうかを判断する場所」なのです。
私が3棟目の物件(築43年の木造アパート・購入価格850万円)を検討したとき、重説の段階でとある事実が発覚してキャンセルした経験があります。それについては後半で詳しく話します。
重要事項説明書の全体構成——何がどこに書いてあるか
重説の構成はある程度標準化されていますが、業者によってフォーマットが異なります。大きく分けると以下の7ブロックになります。
- ①登記記録に関する事項——所有者・抵当権・仮登記・差押えなど
- ②法令上の制限——用途地域・建ぺい率・容積率・再建築可否・接道義務など
- ③私道負担・道路位置指定——前面道路の種別と権利関係
- ④飲用水・電気・ガス等の整備状況——ライフラインの種類と引込み状況
- ⑤宅地・建物の状況(告知事項含む)——雨漏り・シロアリ・傾き・事故物件など
- ⑥契約解除・損害賠償に関する事項——違約金・解除条件など
- ⑦その他(マンションの場合は管理規約・修繕積立金等)
絶対確認すべき項目① 法令上の制限——建ぺい率・容積率・再建築可否
重説の中で最も見落としが多く、かつ後悔につながりやすいのがこのブロックです。特に戸建て投資・リノベーション前提の購入では、法令上の制限を読み違えると計画が根底から崩れます。
建ぺい率・容積率は、敷地に対して建物をどこまで大きく建てられるかを示す数値です。確認すべきは現存建物が既にオーバーしていないかという点。違法建築の物件は融資が下りないことはもちろん、解体して建て替えようとした際に同じ規模の建物が建てられなくなるリスクがあります。
さらに重要なのが再建築可否です。建築基準法では、建物を建てるには原則として幅員4m以上の道路に2m以上接していなければなりません(接道義務)。この条件を満たさない土地は「再建築不可」となり、現存建物が失われた場合に新たな建物を建てることができません。
私が2棟目を探していた頃、利回り14%の魅力的な物件(埼玉県、木造戸建て、価格580万円)を見つけました。重説で確認すると「前面道路:位置指定道路(幅員2.8m)」の記載。接道義務の4m未満であり、かつ2m接道も実測では1.9mしかなかった。DIYでフルリノベを計画していた私には致命的な制限でした。結果的に別物件に切り替えました。
絶対確認すべき項目② ライフライン・インフラの整備状況
飲用水・電気・ガスの整備状況は、賃貸物件として運用するうえでの基本コストと入居者の利便性に直結します。
水道の問題になるケース:①引込み管が他人の敷地を通過している(越境配管) ②井戸水・簡易水道 ③引込み管の口径が細い(13mm以下)。私の1棟目では引込み管が隣地の一角を通過していました。購入後2年目に隣地所有者が変わり、「その管、撤去してくれ」とクレームが。道路から引き直す工事に78万円かかりました。重説をちゃんと読んでいれば値引き交渉に使えたはずです。
ガスは都市ガスかプロパンガスかで入居者の光熱費が大きく変わります。プロパンは一般的に都市ガスより1.5〜2倍高く、入居率に影響するエリアもあります。
下水道は「公共下水道接続済み」「浄化槽」「汲み取り」の3種類があります。浄化槽の場合は年1〜2回の清掃・点検費用(年間3〜5万円)と将来の本下水切替工事費(20〜50万円)も念頭に置く必要があります。
絶対確認すべき項目③ 登記・権利関係と境界線問題
登記記録には物件の「法的な来歴」が記録されています。抵当権・根抵当権の確認、仮登記・差押えの有無は基本として確認しましょう。
境界確定の有無はDIY大家として特に気を配る項目です。私が4棟目として購入を検討した埼玉の古家(価格680万円)で、境界線問題を体験しました。ブロック塀の位置が登記上の境界から約15cm内側に入っていることが判明。「現状のブロック塀位置を境界とみなす覚書」が交わされていましたが、登記上は修正されていない。このまま購入すると将来的に売却時に再度問題になるリスクがありました。最終的にその物件は見送りました。
絶対確認すべき項目④ 建物の状況告知と心理的瑕疵
重説の「宅地・建物の状況」欄には、売主が把握している建物の不具合や告知事項が記載されます。記載がないことが「問題ない」を意味するわけではない点に注意が必要です。
確認必須の告知事項:①雨漏り ②シロアリ被害・腐朽 ③傾き・不同沈下 ④アスベスト含有建材の使用有無 ⑤心理的瑕疵(事故物件)。
私が5棟目の物件購入時(築37年木造、価格740万円)、インスペクション報告書の「屋根材の欠損・棟板金の浮き」の指摘が気になり、引渡し前に屋根裏に入って確認したところ野地板に雨染みを複数確認。売主に告知漏れを指摘し、屋根修繕費用として50万円の値引きを勝ち取りました。インスペクション報告書は「精読する」ものです。
重説段階でキャンセルした体験——850万円の物件を見送った理由
3棟目検討時のキャンセル体験を詳しく話します。対象は埼玉県内の築43年木造アパート2棟(2戸×2棟)、価格850万円、表面利回り約13%という物件でした。申込書を出して重説の日程が決まった時点では、買う気満々でした。
重説当日、「法令上の制限」の項目で宅建士が告げました。「建物の敷地と接する道路は私道で、幅員が2.1mです。位置指定道路の認定は受けていません」。即座に確認すると「再建築不可」でした。私がこの物件に魅力を感じていた理由は「古い間取りを大幅に変更してフルリノベする」計画があったからです。再建築不可物件では大規模リノベに建築確認が必要になりうる。
重説説明終了後、「今回はキャンセルとさせてください」と伝えました。手付金はまだ支払っていなかったため、ペナルティなしでの撤退でした。重説段階でのキャンセルを躊躇う必要は一切ありません。そのための重説です。
宅建士に必ず質問すべき10のこと
- 「この物件は再建築可能ですか?増築・フルリノベは可能ですか?」
- 「前面道路は公道ですか私道ですか?私道の場合、通行・掘削の同意書はありますか?」
- 「境界確定測量は完了していますか?確定測量図を見せてください」
- 「水道引込み管の経路を教えてください。越境はありますか?口径は何mmですか?」
- 「売主が把握しているシロアリ被害・雨漏り・傾きはありますか?修繕履歴を教えてください」
- 「この物件は事故物件に該当しますか?過去3年以内に告知事項はありますか?」
- 「アスベスト含有建材の使用調査は実施されていますか?」
- 「引渡し後に瑕疵が発覚した場合の契約不適合責任の範囲と期間はどうなっていますか?」
- 「現在の入居者との賃貸借契約の内容(賃料・契約期間・敷金残高)を教えてください」
- 「管理費・修繕積立金の滞納はありますか?(マンションの場合)」
DIY大家として特に気にする「リノベ可否チェックリスト」
最後に、私が重説と現地確認を組み合わせて使うDIY大家向けのチェックリストをまとめます。
- ☑ 再建築可否:接道義務を満たしているか(道路幅員4m以上、接道2m以上)
- ☑ 増改築制限:用途地域・防火地域による制限の確認
- ☑ 建ぺい率・容積率の余裕:現状が限度内か、増築余地があるか
- ☑ 構造体の健全性:シロアリ被害・腐朽・不同沈下がないか
- ☑ アスベスト:1975年以前の建物は調査済みか
- ☑ 電気容量・配電方式:単相2線式なら切替工事費用を見込む
- ☑ 水道管の経路と越境:越境があれば将来的な引き直し費用を見込む
- ☑ 排水方式:下水本管か浄化槽か
- ☑ 境界確定の有無:確定測量図があるか、隣地越境がないか
- ☑ 私道の通行・掘削同意:前面私道がある場合、同意書の存在を確認
- ☑ 管理規約の工事制限(マンション):床材・配管変更・内窓設置等の制限内容
- ☑ 前入居者状況・心理的瑕疵:告知事項の有無、退去理由
重要事項説明書は、物件の「不都合な真実」が法的義務として記載される唯一の書類です。読み方を知っている人と知らない人では、同じ物件を見ても全く異なる景色が見えます。6棟を経験した今でも、私は重説の日には必ず上記のリストを持参し、1時間以上かけて確認します。
物件選びに迷っている方は、ぜひ融資審査の段階から物件の法的属性を意識するようにしてください。
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