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相続した賃貸アパートの減価償却:被相続人の取得価額・耐用年数を引き継ぐ実務

大家のリアル

親から賃貸アパートを相続し、そのまま貸し続ける場合、多くの大家が最初につまずくのが「減価償却をゼロからやり直すのか、それとも親の続きを引き継ぐのか」という論点です。結論から言えば、相続で取得した賃貸物件は被相続人(親)の取得価額・取得時期・耐用年数をそのまま引き継ぐのが原則で、相続時の時価や相続税評価額に置き換えるわけではありません。私は大家歴15年で複数棟(9棟)を保有し、うち2棟は相続で承継したものですが、この論点を最初に整理しておかないと、確定申告で毎年数十万円単位の償却費を取り違えることになります。本記事では、機械設計エンジニアとして数字で判断してきた立場から、相続物件の減価償却を「相続税評価」と混同せずに腑分けし、相続開始年の月割り計算、借入利息の扱い、限定承認の例外、将来売却時の取得費まで、実務ベースで解説します。

相続では取得価額・取得時期・耐用年数を被相続人から引き継ぐ

賃貸用の建物を相続で取得した場合、所得税法上は「被相続人の取得価額・取得時期・経過年数・償却の基礎」をそのまま承継します。これは相続・贈与・包括遺贈といった無償の承継に共通するルールで、相続人が新たにその金額で建物を買い直したとは扱われません。たとえば親が20年前に2,400万円(建物部分)で新築したアパートを相続したなら、相続人の帳簿上の取得価額も2,400万円のまま、取得時期も20年前のまま引き継ぎます。相続税の申告で建物の評価額が固定資産税評価額ベースで800万円だったとしても、所得税の減価償却はその800万円ではなく、あくまで2,400万円を基礎に続きを計算するのです。

引き継ぐもの・引き継がないものの整理

私が相続直後に混乱したのはまさにこの点でした。相続税の納税と所得税の申告を同じ「相続した価値」で処理しようとして、危うく償却費を過小計上するところでした。引き継ぐのは(1)取得価額、(2)取得年月、(3)耐用年数の判定基礎、(4)これまでの償却累計に基づく未償却残高(簿価)です。一方で引き継がないのが「償却方法の選択」で、これは後述のとおり相続人が自分名義で選び直します。数字で言えば、親が既に1,600万円を償却済みで未償却残高が800万円だった建物は、相続人はこの800万円を残りの耐用年数で償却していく、というのが基本形です。

💡 判断のポイント

「相続税でいくらと評価されたか」と「所得税で減価償却の基礎がいくらか」は完全な別トラック。前者は路線価・固定資産税評価、後者は被相続人の取得価額。ここを分離できれば相続物件の申告は8割方整理できます。

なぜ「引き継ぎ」なのか制度趣旨から理解する

この引き継ぎルールが存在する理由を制度趣旨から理解しておくと、実務での迷いが減ります。もし相続時の時価で取得価額をリセットできてしまうと、値上がりした物件では相続のたびに減価償却の基礎が膨らみ、本来売却時に課税されるはずの含み益が永久に課税されないまま消えてしまいます。それを防ぐため、無償の承継では被相続人が持っていた「税務上の履歴」をそっくり相続人に引き継がせるのです。私はこの仕組みを機械設計でいう「累積公差」のようなものだと理解しています。親が20年かけて積み上げた償却の履歴を、相続人がその続きから引き継いでいく。だからこそ、親がどの年にいくらで取得し、どの償却方法で何年償却してきたのかという記録が、相続人にとって最重要の引き継ぎ資料になります。親が生前に確定申告で使っていた減価償却費の内訳書(青色申告決算書の別表)を必ず入手してください。ここに取得価額・取得年月・耐用年数・償却累計額・期末未償却残高がすべて載っており、これ一枚あれば相続後の申告は格段に楽になります。私は相続の際、親の税理士から過去5年分の決算書控えを取り寄せ、そこから未償却残高を復元しました。逆にこの資料が無いと、取得価額の証明ができず、税務調査で否認されるリスクを抱えることになります。

償却方法は相続人が定額法・旧定額法を選び直す

取得価額や耐用年数は引き継ぐ一方で、償却方法だけは相続人が自分の名義で改めて選択します。ここが相続物件の減価償却で最も間違えやすいポイントです。建物本体については、2007年4月以降取得分は定額法、それ以前は旧定額法と法定の方法が決まっているため実質選択の余地は限られますが、届出上は「相続人が自分の取得として償却方法を定める」という手続きになります。附属設備や構築物など、かつては定率法が選べた資産についても、2016年4月以降は定額法に一本化されており、相続人はこの現行ルールに従って計算し直します。

償却率が変わることによる金額差

具体例で見てみます。親が旧定率法で附属設備(給排水・電気設備など)を償却していた場合でも、相続人は定額法で計算することになります。仮に未償却残高500万円、残存耐用年数が7年なら、定額法の償却率0.143を用いて年間およそ71万5,000円を経費計上します。旧定率法時代の初期の大きな償却額とは金額感が変わるため、相続初年度に「去年より償却費が減った」と感じるケースがあります。私の相続した築古アパートでも、設備部分の償却が親の申告時より年20万円ほど圧縮され、その分だけ課税所得が増えました。この差を事前に見込んでおかないと、納税額の資金繰りで慌てることになります。

建物本体の耐用年数は「経過年数」で計算し直す

もう一つ実務で重要なのが、建物本体の残存耐用年数の考え方です。取得時期を引き継ぐということは、法定耐用年数から既に経過した年数を差し引いた「残りの年数」で償却が続くということです。木造アパートの法定耐用年数は22年ですから、親が新築後20年経過した築古木造を相続したなら、残存耐用年数は22-20=2年しかありません。この場合、未償却残高がたとえ800万円残っていても、わずか2年で償却し切ることになり、年間400万円という大きな償却費が2年間だけ発生します。これは相続直後の2年間、不動産所得を大幅に圧縮できる一方、3年目からは償却費がゼロになり、いきなり課税所得が跳ね上がる「償却切れ」の崖が待っています。私は9棟の中でこの償却切れを何度も経験しており、相続物件では特に「あと何年で償却が終わるか」を最初にカレンダーへ書き込みます。償却切れの年に大規模修繕やリフォームを計画的にぶつけて、新たな減価償却資産を作ることで所得のブレを平準化する。これは機械設計で言えば負荷の集中を分散させる設計と同じ発想で、相続物件の運用では欠かせない視点です。逆に法定耐用年数を全部経過した中古を相続した場合は、法定耐用年数の20%の年数(木造なら22年×0.2=4年)で償却するという簡便法もあり、ここは親の償却状況によって扱いが分かれます。

相続税評価額と所得税の減価償却は別基準

相続物件の減価償却でつまずく根本原因は、「相続税評価額」と「所得税の帳簿価額」を同じものだと思い込むことにあります。両者は目的も計算根拠もまったく異なります。相続税は財産の承継に対する税で、土地は路線価(または倍率方式)、建物は固定資産税評価額をベースに評価します。一方、所得税(不動産所得)の減価償却は、被相続人の取得価額から未償却残高を引き継いで計算します。同じアパートでも、相続税では建物800万円と評価され、所得税では簿価1,000万円で償却を続ける、という「二重の数字」が普通に併存するのです。

二つの数字を並べて可視化する

混同を防ぐには、相続直後に一覧表を作るのが有効です。私は機械設計の癖で、承継資産ごとに「相続税評価」「所得税の取得価額」「未償却残高」を並べた管理表を最初に作りました。これがあると、その後の毎年の申告で迷いません。

区分 相続税評価(承継時) 所得税の取得価額(引継ぎ) 用途
土地 路線価×地積(例2,000万円) 被相続人の取得価額(例1,500万円) 相続税=評価/売却時=取得費
建物本体 固定資産税評価(例800万円) 取得価額2,400万円/簿価800万円 相続税=評価/所得税=償却基礎
附属設備 家屋評価に含む 取得価額300万円/簿価150万円 所得税=定額法で償却

土地は減価償却の対象外ですが、将来売却時の取得費として被相続人の取得価額を引き継ぐため、承継時に必ず把握しておく必要があります。親の取得時の売買契約書や登記情報を早めに探しておくことが、後々の売却で数百万円の税負担差につながります。

相続開始年の減価償却は被相続人と相続人で月割り分割

相続が発生した年は、同じ物件の減価償却費を被相続人と相続人で分け合う「月割り」の処理が必要です。被相続人の分は準確定申告(相続開始を知った日の翌日から4か月以内)で、相続人の分はその年の通常の確定申告で申告します。年の途中で承継した以上、1年分の償却費を丸ごとどちらか一方に付けることはできません。

月割り計算の具体例

年間の減価償却費が120万円のアパートで、親が4月20日に亡くなったとします。実務上は月単位で按分し、被相続人が1〜4月の4か月分、相続人が5〜12月の8か月分を負担する形が一般的です。計算すると、被相続人分は120万円×4/12=40万円、相続人分は120万円×8/12=80万円です。被相続人の40万円は準確定申告の不動産所得の経費に、相続人の80万円は相続人の申告に計上します。私が相続した際は、税理士と相談のうえ死亡月を相続人側に含める区分で処理しましたが、月割りの端数の付け方は事務所によって運用差があるため、必ず事前に確認しました。

家賃収入・固定資産税など経費全体の按分も忘れずに

月割りが必要なのは減価償却費だけではありません。相続開始年は、家賃収入そのものも被相続人分と相続人分に分ける必要があります。実務上は「賃料の支払期日が到来した日」を基準に、相続開始前に支払期日が来た分は被相続人の収入、相続後に到来した分は相続人の収入として区分するのが一般的です。同様に、固定資産税・損害保険料・管理委託料・共用部の水道光熱費といった経費も、相続開始日を境に按分します。固定資産税は1月1日時点の所有者に1年分が課されますが、所得税の経費としては、相続前に納期が到来した分と相続後に負担した分で分けて計上します。私は相続開始年の申告で、家賃・固定資産税・保険料・減価償却の4項目それぞれについて按分表を作り、被相続人の準確定申告と相続人の確定申告の両方に転記しました。ここを雑にやると、同じ経費を二重に計上したり、逆にどちらにも計上し忘れたりします。遺産分割協議が長引いて年内に相続人が確定しない場合は、法定相続分で各相続人が仮に按分して申告し、分割確定後に修正申告や更正の請求で調整する流れになります。私の2回目の相続では分割協議が翌年3月までもつれ、法定相続分での暫定申告を余儀なくされました。こうした事態を避けるためにも、遺産分割はできるだけ早く方針を固めておくべきです。

⚠️ 失敗談

私は最初の相続の年、準確定申告の期限(4か月以内)を通常の確定申告と同じ翌年3月と勘違いし、危うく期限を過ぎるところでした。葬儀や遺産分割協議に追われる中で税務の期限は後回しになりがちです。相続開始年は「準確定申告=4か月」「相続税=10か月」の2つの期限をカレンダーに真っ先に入れることを強くおすすめします。

相続した借入(アパートローン)の利息を経費にできる範囲

収益物件を相続すると、多くの場合その物件に紐づくアパートローンも一緒に承継します。相続人がこの借入を引き継ぎ、賃貸事業を継続する場合、返済のうち利息部分は不動産所得の必要経費に算入できます。元本の返済は経費になりませんが、これは通常のローンと同じ扱いです。承継後に相続人が支払う利息は、賃貸収入を得るための費用として損金性が認められます。

負担付相続・土地取得分の利息制限に注意

ただし注意点が2つあります。1つは、赤字の不動産所得がある場合、借入金利子のうち土地取得に対応する部分は損益通算(他の所得との相殺)が制限されるという古くからのルールです。建物取得分の利息は制限対象外ですが、土地取得分は不動産所得が赤字のとき他の給与所得などと通算できません。もう1つは、相続開始年に被相続人が支払った利息と相続人が支払った利息の区分です。私の相続案件では、残債1,800万円・金利1.9%のアパートローンを承継し、年間の支払利息が約34万円でした。このうち相続後に支払った月分だけを相続人の経費とし、相続前の分は準確定申告側で処理しました。団体信用生命保険付きのローンだった場合は、被相続人の死亡で残債が保険で完済され、その後は利息が発生しない=経費もなくなる点も見落としがちです。

債務控除との二重取りにはならない整理

ここで大家が混同しがちなのが、相続税の「債務控除」と所得税の「利息の経費算入」の関係です。承継したアパートローンの残債は、相続税の計算上、プラスの財産から差し引く債務控除の対象になります。一方、相続後に相続人が支払う利息は所得税(不動産所得)の経費になります。これらは対象が異なる(相続税は残債元本、所得税は支払利息)ため、二重取りにはあたりません。私は最初この点が不安で税理士に確認しましたが、「元本は相続税で控除、利息は所得税で経費、で問題ない」という明快な回答でした。数字で整理すると、残債1,800万円は相続税の債務控除で課税財産を1,800万円分減らし、相続後に毎年支払う利息34万円は不動産所得の経費として毎年の所得税を減らす、という二段構えです。ただし団信で完済された場合は債務控除も使えず(相続開始時点で債務が消えるため)、その後の利息経費も発生しません。団信付きかどうかは相続税・所得税の両方に効いてくるため、承継したローンの契約内容(団信の有無、金利、残存期間、変動か固定か)は真っ先に金融機関へ確認すべき事項です。私は相続のたびに、まず金融機関に返済予定表(残高証明)を請求し、元本と利息の内訳を年単位で把握することから始めています。

限定承認した場合はみなし譲渡課税が発生する

相続の承認方法には、単純承認・限定承認・相続放棄の3つがあります。通常の減価償却の引き継ぎが成り立つのは単純承認のケースで、限定承認を選ぶと「みなし譲渡課税」という重い例外が発生します。限定承認とは、相続財産の範囲内でのみ債務を負担する承認方法で、債務超過かどうか不明な相続で使われます。この場合、税務上は被相続人が相続開始時の時価で資産を譲渡したものとみなされ、被相続人に対して譲渡所得税が課税されます(準確定申告で申告)。

限定承認で償却の引継ぎが断ち切られる仕組み

みなし譲渡が発生すると、相続人が引き継ぐ取得価額は「被相続人の当初の取得価額」ではなく「相続開始時の時価」にリセットされます。つまり限定承認の場合だけは、これまで説明してきた「取得価額・取得時期の引き継ぎ」原則が断ち切られ、相続人は時価を新たな取得価額として減価償却をスタートします。含み益のある物件で限定承認すると被相続人側に譲渡所得税が生じるため、安易な選択は禁物です。限定承認は相続開始を知った日から3か月以内に、相続人全員が共同で家庭裁判所に申述する必要があり、手続きも厳格です。私はこの制度を実際に使ったことはありませんが、債務超過が疑われる相続の相談を受けた際は、税理士と弁護士の両方に必ず確認するよう伝えています。

限定承認を検討すべき収益物件のケース

収益不動産の相続で限定承認が話題に上るのは、たとえば残債が物件の時価を上回っている「オーバーローン」の物件や、複数の借入が絡んで債務総額が読めないケースです。私が相談を受けた事例では、築30年超の一棟マンションで残債が4,500万円、時価が約3,800万円という債務超過気味の物件がありました。単純承認すれば差額の債務を相続人が背負うリスクがある一方、限定承認すれば相続財産の範囲でしか責任を負いません。ただしこの物件には含み損しかなく、みなし譲渡課税の心配は小さかったため、最終的には他のプラス財産との兼ね合いで単純承認が選ばれました。逆に、含み益の大きい優良物件を限定承認するとみなし譲渡課税で大きな税負担が生じるため、限定承認は「守り」の選択肢と割り切るべきです。定量的に言えば、承継する全財産のプラスとマイナスを一覧化し、債務超過幅とみなし譲渡税額を天秤にかける。この試算なしに3か月の熟慮期間を過ごすのは危険で、相続開始を知ったら真っ先に財産債務の棚卸しに着手すべきです。なお相続放棄という選択肢もありますが、収益物件という資産まで手放すことになるため、収益性が見込める物件では限定承認や単純承認との比較検討が必要になります。

相続後に売却する場合の取得費と取得費加算の特例

相続した賃貸アパートを将来売却する場合、譲渡所得の計算に使う「取得費」は、相続時の時価ではなく被相続人の取得価額(簿価)を引き継ぎます。ここでも減価償却と同じく「引き継ぎの原則」が働きます。取得時期も被相続人の取得日を引き継ぐため、被相続人の所有期間と相続人の所有期間を通算して、長期譲渡(5年超)か短期譲渡かを判定します。相続してすぐ売っても、親が長く持っていれば長期譲渡の低い税率が適用されるのは、この通算ルールのおかげです。

取得費加算の特例と減価償却の関係

さらに、相続税を納めた財産を相続開始から一定期間内(相続税の申告期限の翌日から3年以内)に売却した場合、支払った相続税の一部を取得費に加算できる「取得費加算の特例」があります。これを使うと譲渡所得が圧縮され、譲渡税を抑えられます。ここで重要なのが減価償却との関係です。譲渡所得は「売却価額-(取得費-償却累計額)-譲渡費用」で計算するため、賃貸期間中に計上した減価償却費の分だけ取得費が目減りし、譲渡益は増えます。つまり保有中に償却で所得税を節税した分は、売却時に譲渡益として顔を出す構造です。

項目 保有・継続貸付の場合 相続後に売却する場合
取得価額の基礎 被相続人の取得価額 被相続人の取得価額(簿価)
所有期間の判定 相続人の耐用年数で継続償却 被相続人の取得日から通算
相続税との関係 直接の関係なし 取得費加算の特例(3年内)
減価償却の影響 毎年の不動産所得を圧縮 償却累計分だけ譲渡益が増加

私は相続した2棟のうち1棟を、承継から2年後に売却しました。取得費加算の特例を使えるうちに動いたことで、譲渡税を約90万円圧縮できた計算です。継続保有で毎年償却の節税メリットを取るか、特例期限内に売って譲渡税を抑えるか。この判断は物件の収益性と残債、そして自分の他の所得水準を並べて定量比較すべきで、感覚で決めるべきものではありません。

取得費が不明なときの概算取得費と減価償却の関係

相続物件の売却で最も怖いのが、親の取得価額を証明する資料が一切見つからないケースです。取得費が不明な場合、税務上は売却価額の5%を概算取得費とみなして計算できますが、これは実際の取得価額が判明していれば使わずに済む「最後の手段」です。たとえば5,000万円で売れた物件で、本来の取得費が3,000万円あったのに証明できず概算取得費(5%=250万円)で計算すると、譲渡益が2,750万円も余計に膨らみ、譲渡税だけで数百万円の差が出ます。だからこそ、前述した親の取得時の売買契約書・登記・過去の減価償却明細は、金銭的に見て何より価値のある引き継ぎ資料なのです。私は相続の際、実家の古い書類箱から40年前の売買契約書を探し出し、それが後の売却で概算取得費との差額として大きな節税につながりました。減価償却の履歴と取得費は表裏一体で、保有中の申告のためだけでなく、出口(売却)まで見据えて資料を保全しておくことが、相続物件を引き継ぐ大家の必須の備えです。売却まで賃貸を続ける前提でも、いつ売却の判断が必要になるか分かりません。相続した瞬間から出口戦略を意識しておくのが、複数棟を回してきた私の一貫した方針です。

まとめ:相続物件の減価償却チェックリスト

相続した賃貸アパートの減価償却は、「相続税評価」と「所得税の帳簿価額」を分離できるかどうかがすべての起点です。原則は被相続人の取得価額・取得時期・耐用年数の引き継ぎ、償却方法だけは相続人が現行制度で選び直す。相続開始年は月割り、限定承認だけはみなし譲渡で例外的にリセット、売却時は取得費を引き継ぎつつ取得費加算の特例を検討する。最後に、私が相続のたびに使っている実務チェックリストを共有します。

  • 親の建物の取得価額(取得時の契約書・登記)と未償却残高を把握したか
  • 相続税評価額と所得税の取得価額を別表で管理しているか
  • 相続開始年の償却費を月割りで被相続人分・相続人分に按分したか
  • 準確定申告(4か月)と相続税(10か月)の期限をカレンダーに入れたか
  • 承継したローンの利息を建物分・土地分に区分し、経費算入と損益通算制限を確認したか
  • 限定承認を検討する場合、みなし譲渡課税の影響を試算したか
  • 売却の可能性があるなら取得費加算の特例期限(申告期限から3年)を意識しているか

これらは私が15年の大家経験と2回の相続で実際に踏んできた手順です。減価償却の引き継ぎは、金額が大きいだけに一度ボタンを掛け違えると毎年その誤りを積み上げてしまいます。なお、本記事は2026年時点の一般的な制度理解に基づく整理であり、実際の申告や限定承認・特例の適用可否は個別事情で変わります。金額が大きい相続だからこそ、着手前に必ず税理士など専門家に確認し、数字で裏を取ってから動くことをおすすめします。

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