「家賃収入だけで生活したい」――不動産投資を始める人の多くが、一度はこの夢を描きます。私もサラリーマン時代、満員電車に揺られながら「あと何室持てば会社を辞められるんだろう」と何度も計算したものです。結論から言うと、必要な物件数はあなたの生活費と、1室あたりの手残り(キャッシュフロー)次第で大きく変わります。
この記事では、15年で5棟15室まで増やした私の実例をもとに、家賃収入だけで生活するために必要な物件数を、具体的な数字でシミュレーションします。表面利回りの甘い計算ではなく、税金や空室、修繕まで織り込んだ「現実のキャッシュフロー」で考えていきます。
まず「手残り」の正体を理解する
家賃収入で生活を考えるとき、最も多い誤解が「家賃=収入」だと思ってしまうことです。家賃5万円の部屋を10室持っていても、月50万円が丸ごと手元に残るわけではありません。実際には、ここから様々な経費が引かれます。
具体的には、ローン返済、固定資産税、管理費、修繕積立、火災保険、空室による減収、そして所得税・住民税。私の経験則では、ローンを使って買った物件の場合、家賃収入のうち手元に残るのは概ね30〜40%程度です。家賃50万円なら手残りは15万〜20万円。ローンを完済済みの物件でも、税金や経費を引くと60〜70%程度が現実的なラインです。この「手残り率」を理解せずに物件数だけ追うと、規模は大きいのに自由なお金が増えない「規模倒れ」に陥ります。
さらにやっかいなのが「キャッシュフロー」と「帳簿上の利益」のズレです。ローンの元金返済は経費にならない一方、実際には現金が出ていきます。逆に減価償却費は経費になるのに現金は出ていきません。この結果、「黒字なのに手元にお金がない(黒字倒産)」あるいは「赤字なのにお金は残っている」という現象が起きます。家賃収入で生活したいなら、見るべきは帳簿上の利益ではなく、毎月実際に通帳に残るお金=キャッシュフローです。私は確定申告の数字とは別に、実際の入出金だけを追う「現金ベースの収支表」を毎月つけ、本当に使えるお金がいくらなのかを常に把握するようにしています。
生活費から逆算する必要キャッシュフロー
必要な物件数を出すには、まずゴールである「毎月いくらあれば生活できるか」を確定させます。総務省の家計調査でも、世帯構成によって必要額は大きく異なります。私の場合、家族4人で月の生活費は約30万円。これにゆとり分を加え、目標を月35万円の手残りに設定しました。
| 世帯タイプ | 月の生活費目安 | 目標手残り |
|---|---|---|
| 単身 | 15〜18万円 | 月20万円 |
| 夫婦2人 | 22〜26万円 | 月28万円 |
| 子育て世帯(4人) | 28〜33万円 | 月35万円 |
| ゆとりある生活 | 40万円〜 | 月45万円 |
ポイントは、生活費ギリギリではなく余裕を持った目標を設定することです。賃貸経営には予期せぬ大規模修繕や空室の波があり、毎月きっちり同じ金額が入るわけではありません。生活費+2〜3割を目標手残りにしておくと、現実の変動に耐えられます。
もう一つ忘れてはいけないのが、専業大家になると会社員時代にあった社会保険の恩恵がなくなることです。健康保険は国民健康保険に切り替わり、保険料は自己負担。厚生年金もなくなり、老後の年金は国民年金だけになります。これらの社会保険料や、自分で備える年金分も、生活費に上乗せして考える必要があります。私が「生活費+2〜3割」を勧めるのは、こうした会社員を辞めた後に降りかかるコストまで含めての話です。家賃収入だけで生活する=会社を辞める、という決断には、額面の生活費以上のものが必要になることを、計算の段階で織り込んでおいてください。
区分マンションで生活費を賄うシミュレーション
では具体的に計算してみましょう。まずは初心者に人気の区分マンション(ワンルーム)のケースです。都心の中古ワンルームを家賃8万円、ローン返済・経費を引いた手残りを1室あたり月1万5000円と仮定します。
月35万円の手残りを目指すなら、35万円÷1万5000円=約24室が必要という計算になります。区分ワンルームは1室あたりの手残りが薄いため、家賃収入だけで生活するには相当な室数が要るのです。さらにローン完済前は、この手残りすら出ない物件も珍しくありません。「ワンルーム投資で不労所得」という宣伝を真に受けると、現実とのギャップに苦しみます。区分は生活費を賄う主力にするより、まず1〜2室で経験を積む「入口」と捉えるのが現実的だと、私は考えています。
一棟アパートなら一気に近づく
一方、私が主力にしてきた一棟アパートだと、話はまったく変わります。たとえば家賃5万円×8室=月40万円の築古アパートを、ローンを使わず(あるいは完済して)持っていれば、経費・税金を引いても月25万〜28万円が手元に残ります。これ1棟で目標の8割近くに届きます。
私のリアルな数字を出すと、現在の5棟15室の家賃収入は月およそ75万円。ここからローン返済・経費・税金を引いた手残りが、月でならすと約38万円です。つまり、家族4人の生活費は家賃収入だけで賄えている状態です。ただしこれは15年かけて、最初は1棟ずつ買い増し、得たキャッシュフローを次の物件の頭金に回す「再投資」を繰り返した結果です。下のリストが、私が手残りを最大化するために意識してきたポイントです。
- 融資の比率を抑える:返済が手残りを最も圧迫するため、頭金を厚めに入れる
- 築古を割安に買う:購入価格が安いほど利回りが上がり、手残りも増える
- 自主管理・DIYで経費を削る:管理委託料や小修繕を自分でやれば手残りが直接増える
- 空室を出さない:満室経営こそ最大のキャッシュフロー対策
「数」より「質」──完済済み物件の威力
家賃収入だけで生活する上で、私が最終的にたどり着いた答えは「物件の数を追うより、ローンのない物件を増やす」ことでした。ローンが残っている10室より、完済済みの5室の方が、手元に残るお金は多いことすらあります。
たとえば家賃5万円の部屋が10室あっても、ローン返済で月30万円出ていけば手残りは僅かです。逆に完済済みの5室なら、家賃25万円のうち経費・税金を引いた17万円前後がまるまる残ります。私は40代に入ってから、新規購入よりも繰り上げ返済を優先する戦略に切り替えました。完済済みの物件は、空室や金利上昇に対する耐久力が段違いに高く、精神的にも安定します。「いつかは家賃で食べる」を本気で目指すなら、規模拡大と並行して、無借金の物件をいかに作るかが鍵になります。
始める前に必ずやるべきストレステスト
最後に、これから物件を増やす方へ。机上の利回りで「○室で生活できる」と計算するだけでは危険です。私は必ず「最悪のケース」でも回るかをシミュレーションします。これをストレステストと呼んでいます。
具体的には、空室率を20%に設定し、金利が2%上昇し、年間家賃の5%を修繕費に計上した状態でも、手残りがプラスを保てるかを計算します。順風満帆の前提でしか回らない計画は、最初の逆風で破綻します。私が5棟まで生き残れたのは、買うたびにこの厳しい前提で収支を組み、それでも耐えられる物件だけを選んできたからです。家賃収入だけで生活する夢は十分に実現可能ですが、それは「甘い数字に乗らなかった人」だけがたどり着ける場所です。まずは自分の生活費を確定し、最悪の前提で必要室数を逆算するところから始めてください。
まとめ:必要なのは室数ではなく「手残りの設計」
家賃収入だけで生活するのに必要な物件数は、区分ワンルームなら20室超、一棟アパートなら2〜3棟、完済済みなら数室で達成できる――つまり「何を、どう持つか」で答えはまったく変わります。大事なのは室数そのものではなく、税金・経費・空室まで織り込んだ後の「手残り」をいくら設計できるかです。
私の5棟15室で月38万円という数字は、15年の再投資と、後半の繰り上げ返済戦略の積み重ねです。表面利回りの広告に惑わされず、生活費から逆算し、最悪のケースでも回る計画を立てる。この地味な積み上げこそが、家賃で生活する唯一の現実的な道です。まずは収支シートを開いて、あなた自身の「必要手残り」と「必要室数」を計算してみてください。
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