管理委託vs自主管理:どちらが得かという問いへの答え
「管理会社に任せると費用がかかるから、自主管理の方が得じゃないか」という質問を多くの大家志望者から受けます。確かに管理委託費は家賃収入の5〜10%と決して小さくありません。10室・月収100万円の物件なら毎月5〜10万円、年間60〜120万円が管理費として出ていきます。「これを節約したい」と思う気持ちは理解できます。
しかし大家業15年の私の結論は「損益分岐点を超えた規模になって初めて自主管理が経済的に合理的になる」です。逆に言えば、規模が小さいうちは管理委託の方がトータルで得になるケースがほとんどです。本記事では、管理委託と自主管理のコスト構造を具体的な数字で比較し、どちらを選ぶべきかの判断基準を解説します。
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管理委託の実際のコスト:「管理費だけじゃない」を知る
管理会社に委託する場合のコストは「管理費(月額)」だけではありません。全体像を把握していないと、比較が正確にできません。
| コスト項目 | 相場 | 内容 |
|---|---|---|
| 月額管理費 | 家賃の5〜10% | 入居者対応・集金・クレーム処理 |
| 入居者募集費 | 家賃1〜2ヶ月分 | 空室時の仲介・広告費 |
| 更新手数料 | 家賃0.5〜1ヶ月分 | 契約更新時の事務処理費 |
| 退去立会・精算費 | 1〜3万円/件 | 退去時の立会・原状回復精算 |
| 修繕対応手数料 | 工事費の5〜15% | 修繕手配時の業者コーディネート費 |
10室・月額家賃10万円のアパートで計算すると、月額管理費だけで5〜10万円ですが、これに募集費・更新手数料・退去精算費・修繕手数料を加えると、年間で150〜250万円になることも珍しくありません。これは年間家賃収入(1200万円)の12〜20%に相当します。管理委託の実態は「表面利回りから最低12〜15%のコストが取られる」と考えた方が正確です。
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自主管理の実際のコスト:「タダではない」を知る
自主管理に切り替えれば管理費ゼロになる——と思うのは誤りです。自主管理には別のコストがかかります。
- 時間コスト:入居者対応・クレーム処理・修繕手配に費やす時間。1棟10室なら月10〜20時間が目安。時給換算で考えると決して安くない
- 募集コスト:空室が出た場合の広告費・SUUMO掲載料・仲介業者への仲介手数料は自主管理でも発生する。管理会社経由と同等のコストがかかることが多い
- 専門知識の習得コスト:賃貸借法・原状回復ガイドライン・敷金精算・更新手続きなどを自分で学ぶ学習コストと失敗リスク
- 機会損失:管理に時間を取られることで、本業や次の物件探し・リノベ作業に使える時間が減る
- 緊急対応のストレス:深夜の水漏れ・鍵紛失・騒音クレームなどの緊急対応を自分で受けるストレスと時間
私の経験では、自主管理に費やす時間を時給3000円で換算すると、月10〜15万円の「見えないコスト」が発生します。これは管理費8%と同程度かそれ以上です。「管理費を節約したつもりが、実は同じかそれ以上の費用を払っていた」という結末になるケースが多いです。
損益分岐点の計算:何室からが自主管理のメリットが出るか
では実際に何室・何棟になれば自主管理が経済的に合理的になるのでしょうか。私が計算した損益分岐点を公開します。
前提条件:自主管理に費やす実質コスト(時間・学習・ストレス)を月15万円(年間180万円)と設定。1室あたりの月額家賃を7万円とする。
管理委託費7%の場合:1室あたり月額4,900円。自主管理の固定コスト180万円を超えるには、180万円÷(4,900円×12ヶ月)≒約31室が損益分岐点になります。つまり30室以下なら管理委託の方がコスト的に有利、31室以上になって初めて自主管理のコスト削減効果が出始める計算です。
もちろんこれは目安であり、大家の本業・家族構成・物件の立地(近隣か遠方か)によって変わります。ただ「5〜10室程度の規模で自主管理に切り替えようとしている」という大家の話を聞くたびに、「時間コストを計算していますか?」と必ず聞くことにしています。
私が実践する「ハイブリッド管理」という選択肢
管理委託か自主管理かという二択ではなく、私は「ハイブリッド管理」を実践しています。具体的には、入居者募集と日常対応は管理会社に委託し、修繕の相見積もりと業者選定は自分で行うという方法です。
ハイブリッド管理の仕組み:
- 入居者募集・審査・契約:管理会社に委託(客付け力を活用)
- 家賃集金・滞納対応:管理会社に委託(手間とリスクを回避)
- 日常のクレーム・修繕一次対応:管理会社に委託(深夜対応も含む)
- 修繕の相見積もり・業者選定:大家が直接行う(コスト削減)
- 退去立会・原状回復精算:大家が立会に参加(精算の妥当性を確認)
- 定期点検(床下・天井裏・外壁):大家が自分で実施
このハイブリッド管理によって、管理費は7%程度かかりますが、修繕費を相見積もりで20〜30%削減でき、退去精算での無駄なコストも抑えられます。トータルのコスト削減効果は管理費そのものを削るより大きいことが多いです。
自主管理に向いている大家・向いていない大家
自主管理が合う大家とそうでない大家には、明確な特徴があります。
自主管理に向いている大家:
- 物件が自宅や職場から車で30分以内にある
- 副業や会社員としての本業が忙しくなく、時間の融通が利く
- 賃貸借法・原状回復ガイドラインを自分で学ぶ意欲がある
- 入居者との直接コミュニケーションを苦にしない性格
- 緊急対応(深夜の設備トラブルなど)に対応できる体制がある
管理委託の方が向いている大家:
- 物件が居住地・職場から遠い(片道1時間以上)
- 本業が多忙で時間的余裕がない
- 入居者対応やトラブル処理が精神的ストレスになりやすい
- 保有物件数が少ない(10室以下)
- 将来的に物件を増やす予定で、規模拡大に時間を使いたい
私が初心者大家にすすめるのは「最初の2〜3年は管理委託で大家業の基本を学び、規模が30室を超えてきたら自主管理への移行を検討する」というステップです。最初から自主管理に突っ込むと、基本知識のないまま問題対応を迫られ、失敗リスクが高まります。
管理会社の交渉術:費用を下げながら質を維持する方法
管理委託を選ぶとしても、管理費を少しでも下げる交渉は十分可能です。私が実践している管理会社との交渉術を公開します。
- 複数物件をまとめて発注:2棟以上を同一の管理会社に委託すると、まとめ割引として0.5〜1%の値下げ交渉が通りやすい
- 業者選定権を保持する条件で管理費を下げる:「修繕業者は自分で選ぶ代わりに管理費を下げてほしい」という交渉は管理会社も応じやすい
- 更新手数料の無料化:長期契約(3年以上)を条件に更新手数料を無料にしてもらうよう交渉する
- 年1回の費用見直し条項を入れる:管理委託契約に「年1回の費用見直し」を入れ、定期的に交渉の機会を作る
管理会社も「良い物件オーナーとは長く付き合いたい」と思っています。入居率を高く維持し、修繕を適切に行い、家賃収入が安定している物件は管理会社にとっても旨味があります。「良い物件・良い大家」であることが、交渉力の源泉です。
物件購入判断の収支計算シート+使い方完全解説
本記事で紹介した「実質利回り計算」をワンクリックで自動化する Excelシート+判断基準をnoteで公開しています。実際に5棟以上の購入判断に使った完成版です。
まとめ:管理委託vs自主管理の判断基準
管理委託と自主管理の選択は「どちらが絶対に得か」ではなく「自分の規模・時間・スキルに合っているか」で決めるべきです。
- 30室未満:管理委託が費用対効果で有利なケースが多い
- 30室以上:自主管理への移行を検討する価値が出てくる
- ハイブリッド管理(委託+自分で修繕管理)が最もコスト効率が良いことが多い
- 管理費は交渉次第で下げられる。複数棟まとめ発注・業者選定権の保持が有効
- 時間コストを必ず計算に入れる。「管理費ゼロ」は自主管理のコストではない
大家業は長期事業です。「今年だけ得をする方法」ではなく「10年20年の収益を最大化する仕組み」を選んでください。







