繰り上げ返済は「いつでも得」ではない
不動産投資ローンを持つ大家の多くが一度は考えることがあります。「手元に余剰資金ができたら繰り上げ返済した方がいいのか?」という問いです。住宅ローンでは「繰り上げ返済は正義」という認識が広まっていますが、不動産投資ローンにおいては必ずしもそうではありません。むしろ状況によっては「繰り上げ返済しない方が得」なケースが多くあります。
私は現在5棟・借入残高約5400万円を保有しています。繰り上げ返済を何度か検討しましたが、実際に実行したのは1棟のみです。残りの物件では戦略的に繰り上げ返済を見送り、余剰資金を別の用途に回しました。本記事では、私が使っている「繰り上げ返済の判断基準」を具体的な数字とともに解説します。
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繰り上げ返済のメリットとデメリットを整理する
まず冷静に繰り上げ返済のメリット・デメリットを整理します。感情で判断せず、数字で見ることが重要です。
繰り上げ返済のメリット:
- 利息負担が減る(残債が多いほど・返済期間が長いほど効果大)
- 毎月のキャッシュフローが改善する(返済額短縮の場合)
- 精神的なストレスの軽減(借金が減る安心感)
- 次回の融資審査でプラス評価になる可能性
繰り上げ返済のデメリット:
- 手元現金が減る(緊急修繕や次の物件取得機会を逃すリスク)
- 繰り上げ返済手数料がかかる場合がある(数万円)
- 節税効果が減る(利息は経費計上できるため、利息が減ると節税額も減る)
- 投資効率の観点では、低金利ローンの利息より高利回り運用の方が得になるケースがある
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判断基準1:金利水準との比較
繰り上げ返済を判断する最初のステップは「現在の融資金利と、その資金を別用途で運用した場合の期待利回りの比較」です。
例えば、融資金利が2.0%のローンを繰り上げ返済する場合、「2.0%の確実な利息節約」と「その資金を別の投資に回した場合に得られる期待リターン」を比べます。もし別の物件投資で実質利回り6%が見込める場合、繰り上げ返済より投資に回す方が経済合理性があります。逆に金利が3.5%以上あり、他に有利な投資先がない場合は繰り上げ返済が合理的です。
私の基準は「融資金利3%超:繰り上げ検討ゾーン、融資金利2%台:次の投資を優先」です。現在の低金利環境では、多くの不動産投資ローンが1.5〜2.5%台のため、繰り上げ返済より「資金を別物件の頭金に使う」方が資産増加速度が速くなるケースが多いです。
判断基準2:手元キャッシュの安全圏
繰り上げ返済を行う際は「返済後の手元キャッシュ」が安全圏にあるかを必ず確認してください。私の安全基準は「保有物件の年間修繕積立額×3年分+生活費6ヶ月分」です。
| 保有規模 | 最低確保すべきキャッシュ | 理由 |
|---|---|---|
| 1〜2棟(〜10室) | 300〜500万円 | 給湯器・エアコン一斉交換でも対応可能 |
| 3〜5棟(10〜25室) | 500〜1000万円 | 外壁塗装・屋根修繕の突発に備える |
| 6棟以上(25室超) | 1000万円以上 | 複数棟の同時修繕リスクに備える |
この安全圏を下回るような繰り上げ返済は、次に緊急修繕が発生したときに「現金がなくてローンを組む」という本末転倒な状況を生みます。心理的に「借金を減らしたい」という気持ちはよくわかりますが、大家業における現金確保は最優先事項です。
判断基準3:税務上の影響を計算する
不動産投資ローンの利息は「不動産所得の経費」として計上できます。繰り上げ返済で利息が減ると、経費が減って課税所得が増え、結果として所得税・住民税の負担が増えることがあります。この「節税効果の喪失」を見落とすと、繰り上げ返済の実際の効果を過大評価します。
計算例:融資残高3000万円・金利2.5%の場合、年間利息は約75万円。これが経費になっているとすると、課税所得が75万円高くなります。税率30%(所得税20%+住民税10%)の方なら、75万円×30%=22.5万円の追加税負担が発生します。
つまり「年間利息75万円を節約した」ように見えても、税務上は実質52.5万円(75万円-22.5万円)しか得しないことになります。この計算を怠ると繰り上げ返済の効果を誤解します。必ず税理士と相談した上で決断することをすすめます。
判断基準4:残存期間と残債の関係
ローンの残存期間によって繰り上げ返済の効果は大きく異なります。一般的に「元利均等返済」のローンでは、返済初期ほど利息の割合が高く、繰り上げ返済の効果が大きくなります。逆に残存期間が短くなると利息そのものが少なく、繰り上げ返済の効果は薄れます。
- 残存期間10年以上:繰り上げ返済の利息節約効果が高い。ただし手元現金・投資機会コストとのトレードオフで判断
- 残存期間5〜10年:利息節約効果は中程度。精神的安心のためなら実行してもよい
- 残存期間5年未満:利息節約効果は小さい。繰り上げ手数料を払ってまで急ぐ必要はほぼない
私が1棟で繰り上げ返済を実行したのは「残存期間12年・金利3.2%・残債1200万円」というケースです。このケースでは金利が高く、手元に余剰資金が十分にあり、次の投資予定もなかったため、繰り上げ返済が合理的と判断しました。結果、月の返済額が約3万円下がり、年間36万円のキャッシュフロー改善になりました。
繰り上げ返済の方法:期間短縮型と返済額軽減型
繰り上げ返済には「期間短縮型」と「返済額軽減型」の2種類があります。それぞれの特徴を理解して選択してください。
期間短縮型:返済期間を短くする。総支払い利息の節約効果が大きい。毎月の返済額は変わらないため、キャッシュフローの即効性はない。長期保有予定で「早く完済したい」場合に向く。
返済額軽減型:毎月の返済額を下げる。総利息節約効果は期間短縮型より小さい。しかしキャッシュフローが即座に改善する。空室リスクが高い時期・手元現金が薄い時期に向く。
私の選択基準は「キャッシュフローに余裕があれば期間短縮型、余裕がなければ返済額軽減型」です。不動産投資ではキャッシュフローの安定が最優先なので、多くの場合は返済額軽減型を選ぶことが多いです。
繰り上げ返済より先に検討すべきこと
実は繰り上げ返済を検討する前に、より効果的な資金の使い道がある場合があります。私が「繰り上げ返済より先に検討すること」として実践しているリストを公開します。
- ①既存ローンの借り換え:現在の金利より0.5%以上低い条件で借り換えられるなら、繰り上げより効果的なケースがある
- ②次の物件の頭金として積立:実質利回り5%以上の物件投資は、2%台のローン利息節約より高リターン
- ③修繕積立の充実:突発修繕で慌てないよう、各棟に適切な修繕積立を確保する
- ④生命保険・団信の見直し:ローンに紐づく団体信用生命保険を確認し、無駄な保険料を削減する
繰り上げ返済は「確実に得になる方法」ですが、「最も得になる方法」ではないケースが多いです。資金の使い道の優先順位を常に頭の中で整理しておくことが、大家として資産を最大化する重要なスキルです。
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まとめ:繰り上げ返済の判断フロー
不動産投資ローンの繰り上げ返済は、以下の判断フローで決めることをすすめます。
- 手元キャッシュが安全圏(保有規模に応じた最低ライン)にあるか → NO なら見送り
- 融資金利が3%以上か → NO(低金利)なら投資優先を検討
- 借り換えで0.5%以上の金利低下が可能か → YES なら繰り上げより借り換え優先
- 次の物件投資計画があるか → YES なら頭金積立を優先
- 上記すべてクリアなら繰り上げ返済を実行
大家業は「借金をゼロにすること」がゴールではありません。「資産を最大化しながら安定したキャッシュフローを生み続けること」がゴールです。繰り上げ返済はそのための手段のひとつに過ぎません。感情ではなく数字で判断する習慣が、長期的な資産形成を支えます。







