「そろそろ法人化を考えた方がいい」と税理士に言われたのは、不動産収入が年間800万円を超えたあたりだった。しかし「法人化すると節税できる」とは聞くが、本当に自分のケースで得なのかが分からなかった。
DIY父さんは8棟の賃貸物件を保有しており、本業の給与収入と合わせると合計所得が相当な額になる。法人化の損益分岐点を税理士に試算してもらい、最終的な判断を下した。その過程と結論を公開する。
法人化を考えたきっかけ
転機は確定申告の際に所得税・住民税の合計が前年比で大幅に増えたことだった。不動産収入が増えるほど、累進課税の影響で税率が上がっていく個人の所得税の仕組みが、大家にとっては収益拡大の足かせになる。
同時に、長男が将来的に物件を引き継ぐことを考えると、相続税の問題も無視できなくなってきた。法人名義で所有していれば、株式の贈与・相続として扱えるため、不動産そのものを移転するより有利になるケースがある。
これらの課題が重なり、税理士に相談を持ちかけた。
個人と法人の税率比較
まず基本的な税率の違いを整理する。
| 課税所得 | 個人所得税率(住民税含む) | 法人税率(実効税率) |
|---|---|---|
| 〜195万円 | 15% | 約23〜25%(中小法人) |
| 195万〜330万円 | 20% | |
| 330万〜695万円 | 30% | |
| 695万〜900万円 | 33% | 約23〜25% |
| 900万〜1,800万円 | 43% | 約23〜25% |
| 1,800万円超 | 50〜55% | 約23〜25% |
課税所得が900万円を超えると、個人の税率(43%〜)が法人の実効税率(約23〜25%)を大きく上回る。ここが一般的に「法人化の損益分岐点」と言われる水準だ。ただしこれはあくまで目安であり、実際には経費・給与設定・初期費用を含めた試算が必要だ。
法人化のメリット
メリット1|節税効果(給与所得控除の活用)
法人から自分への役員報酬として支払うことで、給与所得控除が使える。個人事業主には給与所得控除がないため、同じ収入でも課税所得が変わる。さらに、家族を役員・従業員として雇用して給与を支払うことで、所得分散による節税が可能になる。
メリット2|経費の範囲が広がる
法人では事業に関連する費用を経費として計上しやすい。生命保険料(法人契約)、社用車、出張費、接待費、研修費など、個人事業主では認められにくい費用が経費化できる。
メリット3|相続対策
法人名義で不動産を所有すると、相続時に株式の移転として扱える。不動産の相続より手続きが簡便で、贈与税・相続税の計算も株式評価額(帳簿価額等)で行えるケースがある。生前に株式を少しずつ贈与することで、相続税対策を継続的に行うことができる。
メリット4|損失の繰越期間が長い
法人は欠損金(損失)を10年間繰り越せる。個人事業主(青色申告)の3年間より長く、大規模修繕が発生した年の損失を長期間活用できる。
法人化のデメリット
デメリット1|設立・維持コストがかかる
法人設立には登録免許税・定款認証費用で15〜25万円程度かかる。毎年の税理士費用も個人申告より高く、年間20〜50万円の追加コストが一般的だ。また、赤字でも法人住民税の均等割(約7万円/年)は発生する。
デメリット2|既存物件の移転コスト
個人所有の物件を法人に移転する場合、不動産取得税・登録免許税・仲介手数料が発生する。8棟分を移転すると、数百万円のコストになることもある。「新規取得分から法人名義にする」方法で初期コストを抑える大家も多い。
デメリット3|社会保険の加入義務
法人を設立して役員報酬を払うと、社会保険(健康保険・厚生年金)の加入が義務になる。現在、会社員として健康保険・厚生年金に加入している場合は、個人事業主の国民健康保険より手厚い給付が受けられる反面、保険料負担が増えることもある。試算が必要な部分だ。
デメリット4|事務処理の増加
法人は決算・申告・議事録作成など、個人より事務作業が増える。税理士に丸投げすると費用がかかり、自分でやると時間がかかる。どちらにせよ、手間は確実に増える。
法人化の損益分岐点シミュレーション
税理士に依頼し、収入水準別の試算を行った。(給与収入700万円・不動産収入のみ変動の前提)
| 不動産収入(年間) | 個人の税負担(概算) | 法人化後の税負担(概算) | 差額(節税額) |
|---|---|---|---|
| 300万円 | 約99万円 | 約82万円(維持費含む) | ▲17万円 |
| 500万円 | 約180万円 | 約140万円(維持費含む) | ▲40万円 |
| 800万円 | 約312万円 | 約215万円(維持費含む) | ▲97万円 |
| 1,200万円 | 約504万円 | 約295万円(維持費含む) | ▲209万円 |
この試算では、不動産収入が300万円でも年間17万円の節税効果が出る。ただし設立コスト(約20万円)を回収するには初年度は赤字になる計算だ。収入が高くなるほど節税効果は急増し、1,200万円では年間200万円超の差になる。
DIY父さんの結論と今後の方針
試算の結果と現在の状況を総合的に判断し、DIY父さんが出した結論は「今すぐ法人化はしない、ただし次の物件購入から法人名義にする」だ。理由を説明する。
今すぐ法人化しない理由:既存8棟を法人に移転すると、不動産取得税・登録免許税だけで推定200〜300万円のコストが発生する。これを節税効果で回収するには数年かかる。また、本業(会社員)との兼ね合いで副業規定への配慮も必要で、タイミングを慎重に選ぶ必要がある。
次の物件から法人名義にする理由:新規購入であれば移転コストが不要で、設立コストのみで済む。時間をかけて法人側に収益を積み上げていくことで、将来的な相続対策と節税を同時に実現できる。法人の運営実績を積むことで、金融機関からの信頼も高まる。
「年収いくらから法人化すべきか」という問いに対する私の答えは、不動産収入単体で500万円を超えたら検討を始め、800万円を超えたら具体的に動くということだ。ただし給与収入・家族構成・将来計画によって最適解は変わるため、必ず税理士への相談をお勧めする。
まとめ
法人化は「節税の魔法」ではなく、「コストと手間をかけてより多くの税金を取り戻す仕組み」だ。収入規模が小さいうちはコストが節税効果を上回り、逆効果になることもある。
大家として法人化を検討するなら、まず自分の収入規模と税負担を正確に把握し、具体的な試算を税理士に依頼することから始めよう。「みんながやっているから」「節税できると聞いたから」という曖昧な動機では、損をするリスクがある。
DIY父さんは今後2〜3年で次の物件購入を計画しており、その際に法人設立と一体的に進める予定だ。その経緯もまたブログで公開する。
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